元治元年六月四日



ついにあの歴史的な事件が起こる前日となってしまった



どうなるだろうかと不安になる




「華蓮、今日は呼ばれるまで部屋にいろ」



「はい、わかりました」



いつになく険しい顔の土方が部屋を出て行く



今はお昼過ぎ



恐らく桝屋の主人が捕まったのだろう



史実では、桝屋喜右衛門と名乗る古高俊太郎は桝屋に武器や火薬をかき集め、長州藩と手を組んでいたと言われている



そしてそれを新撰組の観察方である山崎や島田が突き止め、捕縛し、拷問にかけるのだ






「ぎゃあぁぁぁぁああ!!」



(ビクッ)



さっきからもう何回目になるだろうか



蔵の方からものすごい悲鳴が聞こえる



屯所内も慌ただしく、華蓮は部屋で一人、うずくまっていた




──スッ


「蓮さん、大丈夫ですか?」



「沖田さんっ」



思いがけない登場に華蓮は少し安心した



「声、聞こえて怖いでしょう?」



本当は怖いのだが、華蓮は首を横に振った



「嘘なんかつかなくていいんです
土方さんが今日は忙しくなりそうなので、僕が蓮さんのことを頼まれました」



鬼のような拷問をしている最中でも、華蓮のことを気にかけてくれるのか



「だから、怖かったら怖いって言っていいんですよ」



差し出された沖田の腕をそっと掴む



土方と恋人関係にある以上、彼以外の腕に抱きしめてもらうわけにはいかなかった



だから沖田の着物をきゅっと握っていた



古高の声が怖いというだけじゃない



これから起こること全てが怖いのだ