黒色女子を個人授業

私は店員の耳に届かぬよう、小声で叫んだ。

「だからって、こんな可愛らしいお財布、恥ずかしくって持てません!」

だって周りを見てごらんよ。

店の雰囲気を象徴するかのように、華やかな衣服を身に纏う女性たち。これからデートなんじゃないかってくらい、目一杯おしゃれをしている。

確かに彼女たちなら、可愛いピンクのお財布を持つことも許される。

だけど、私はというと。

真っ黒い飾り気のない黒髪を無造作に背中まで伸ばし、しているのかいないのか分からないようなメイク。

生真面目な黒いパンツスーツに身を包み、色気のかけらも見当たらない。

こんな私に、こんなキュートなアイテムを持つ権利があると思う?


おどおどと周囲を見回す私の姿を見て、小さくため息をつく彼。仕方ないなぁとでもいうようにクスッと笑う。

「じゃあ、譲歩してこの辺りかな?」

彼が指差したのは、オフホワイト。

でもやっぱりハートのモチーフが入っていた。


「ハート、どうにかなりませんかね」

「ならないね。これは外せないよ」

「もう少し落ち着いたデザインのもの選べないんですか?」

「テーマはイメージチェンジだからね」

勝手にテーマが決まっていたらしい。


ここで白は汚れるから、なんて言ったら、みみっちい人間だと思われるだろうか。