「すいません、まだ名前言ってませんでしたね。俺柊 尚人(ひいらぎ なおと)っていいます」

そう言って優しい笑みを浮かべる柊くん。不良だって分かってても、ドキッとする。

「私の名前なんで知ってたの?」
「昨日ぶつかった時に名札を見ました」

まさか前から知ってるわけないよね。

目をつけられてた訳じゃなくて良かった。こういうひととは関わらない方がいいもんね。

それでもちょっと悲しくなってしまった。

「一目惚れとかじゃないの?」

横にいた紗那が口を出す。

ニヤニヤしてるし....

ほんとに私が柊くんのこと好きだと思ってるみたいだ。

「いや、俺彼女いますし。」

彼女って言葉に胸がズキズキ痛む。
好きなわけじゃないけど、柊くんの口から彼女って聞きたくなかった。

「でも、雫は好みなんじゃない?」

「わ、私は真面目な人が好きかなー!黒髪が好きなんだよね!」

なんとか疑いを晴らそうと精一杯言い訳してみたけど、紗那はまだニヤニヤしてる。

「水野先輩みたいな真面目な人と俺みたいなチャラチャラしたやつじゃ、釣合いませんよ」

冗談っぽく言ってたけど、逆にそれが悲しい。

男子にここまで優しくされたの初めてだからこんな気持ちになるのかな...

好きじゃない。それはほんと。

でもどうしてこんなに悲しいの?

「それじゃあ、俺はこれで」

校舎の方へ歩いていく柊くんの背中を眺めながら、ドキドキする気持ちを必死に隠そうと、忘れようとした。

だってどんなにいい人でも柊くんは関わっちゃいけない人だから。


好きになっちゃいけない人だから。