慰謝料請求の途中で千夏が逃げ出したために怒っているのだろうか。

しかし見方によっては哀の表情にも見える。

慰謝料請求がうまくいかずに悲しんでいるのかもしれない。




「おっ、おお、みやび」




わざとしすぎる言い回しをする侑の脇腹を肘でつくと睨まれた。

こういうとき侑はまるで役に立たない。




「十瀬さん」




はい、と返事をすれば、即座に慰謝料の請求を言い渡される。

家は特別裕福なわけでもないし、多額の慰謝料を請求されたらおそらく私は学校に来ることなどできなくなるだろう。




「落ち着こうぜ。気楽にいこうぜ」




もはや意味がわからない。


もう少し気の利いたことを言えないだろうか。




「……ごめんなさい。なんか、驚かせちゃったみたいで」




みやびの口から漏れた声は、やさしいぬくもりを帯びたものだった。

しかし油断は禁物。もしかするとみやびは策士な性格、という可能性もある。

やさしく入り、罠にかけようとしているなんて場合も想定しておかねばならない。




「福丸くんと付き合ってる、というのは予想してたので」




儚げに微笑んだみやびに、千夏と侑は「は?」と大きく口を開けた。




「隠さなくても大丈夫ですよ。僕は全然気にして……」




話している途中で、みやびの瞳が揺れたかと思うと、色白なその頬を、透明な雫が伝った。




「えっ、早坂くん!?」


「す、すみません。フラれることはわかってたんですけど」




さっぱり話が読めない。


慰謝料の請求に、フラれる?




「やっぱり千夏のことが、す、好きなのか」


「え」




侑が訊ねると、みやびは何度も大きくうなずいた。





「す、好き?」