「森川さん、この間言ってた参考書持ってきたよ。」
な、なんかすごい話の割り込み方してきた。
真部くんも少し驚いた顔をしながら、謎の伊織くんの笑顔の威圧にたじろいで「じゃあ、またこの話はあとで…。」と言って逃げた。
そして「参考書、進路室にあるんだけど。今大丈夫だよね?」と着いて来いよという背後にある言葉に気付き、首を何度も縦に振った。
やめてその笑顔の威圧、怖い。
…かっこいいけど。
進路室の前でまたあの時みたいに鍵をポケットから取り出した。
「あの…当たり前のように鍵出してるけど、私ちゃんと職員室に返し…ひぃっ。」
「今君が僕に口答えしてもいい状況にいると思うの?へえ、いい度胸だね。」
と真っ黒な笑顔を見せながら進路室へ入った。
入ったら終わる、入ったら終わる、18年間の人生の中で史上最大級の警報が私の中で鳴ったけれども、今更逃げるなんて不可能。
すでに、捕まえられてしまっている。
進路室に入ればすぐにドアを閉められ内鍵もかけられた。
全身が身の危険を感じている。
「あの、参考書、とは…?」
「心当たりの参考書が君にはあるの?」と唇を片方だけ吊り上げて笑う。
「あ、はは、まあ…ありませんよね〜…。」
「まあないよね〜。」
そして何故かジリジリと迫り来る伊織くん。


