昼休みが終わって教室に戻ると、いつもと変わらない様子の伊織くんがいる。
本当に、何もなかったようだ。
さっきのことが幻だったかのよう。
....あんなことされたのに。
あんなことされたのに、それでもやっぱり伊織くんが好きだ。
伊織くん、きっと何か勘違いをしているよ。ちゃんと伝えたい。
帰りのHRが終わると伊織くんはさっさと教室から出て行ってしまった。
モタモタと私は帰る準備をしていて遅れてしまった。
話したいのに!
ダッシュで追いかけると、下駄箱で追いつけた。
「はぁっ、伊織っくんっ!」
振り向くと伊織くんはまた薄らと笑って「何その息の切らし方。誘ってる?」と言う。
それでも、すでに靴を履いた伊織くんはスタスタと歩いて行ってしまう。
「待って!」
私もすぐに靴を履いてついていく。
「君は僕のストーカーになりたいの?それともセフレ?どっちにしてもしつこいのは嫌いだよ。」
言われてることは酷いけれど、「嫌い」といういう言葉が一番グサリと刺さる。
「伊織くん…ねえ、何でそんなこというの?」
伊織くんの長い脚によって歩幅は広くなるのは当然のことで、伊織くんは歩いてるつもりでも、私は伊織くんに走っていかなければついていくのがやっと。
私のことは気にせず伊織くんは速度を全く緩めない。
「私っ、純粋に伊織くんが好きで、やましいことを求めたわけじゃないの。
はぁっ、恋人になって欲しいわけでもない。
ふっ、ただ、伝えたかったの。もしもっ、はっ、違うように捉えられていたら、嫌だと思って、もっ、一度、伝えたかった、の。
はっ、はぁっ、私っ…。」
走りながら喋るなんて帰宅部の私にはキツイ…。
というか、何も反応が無いんだけど聞いてるのだろうか?
聞いて欲しい、ちゃんと伝わって欲しいよ…!
「私っ、伊織くんのストーカーにもセフレにもなりたいわけじゃないのっっっ!!!」
のーっ、 のーっ、 のーっ…
とその場でやまびこのように響くくらい大きな声で叫んでしまった。
ハッとして周りを見渡すと、私たち同様に帰宅途中の生徒たちがこちらを見てる。
「何これ死にたい…。」
恥ずかし過ぎてその場で足を止めると、伊織くんも足を止めた。
と思ったら突然爆笑し始めた。
「ははははっ、死にたいのは僕の方だっ、ふふ、君本当に頭おかしいんじゃない?はははっ、僕の名前呼んで巻き添え食らわすなんてひどいよ変態。」
こんな笑顔の伊織くん初めて見た。
かっ、かっこいい…!!また鼻血が出てしまいそう…!!!
いやいやいや、と頭を振って、また妄想世界へ引き込まれそうになっていたところを引き返した。
もう泣きそうだ。
穴があったら入りたいというのはこういうことだ…こんな公開処刑、平然としていられるはずがない。
ぷるぷると震えると伊織くんの機嫌が何故かもっと良くなった。
「うん、君面白いね。いじめがいがあるよ。」
天才王子ドS発言を投下。


