「嫌い・・・・」


「美咲・・・」


「あなたなんて大嫌い!存在が嫌い!もう来ないでよっ」




言い過ぎた言葉だとすぐには気づけない私は子供なんだと思う。


自分の感情のままに涙でぐしゃぐしゃの顔で玄に言い放つとようやく玄は困った笑顔を見せた。


ずきりと胸が痛むのはなんでだろう?


こうなる事を願って言い放った言葉だったのに、目の前の玄が笑っているのに寂しそうな表情をしたのに罪悪感が募る。




「・・・・わかった、帰るよ」



玄が私の頭に手を伸ばし優しく触れると入口に足を向ける。


その姿を振り返るのも自分の意思に反する気がして、言葉を返す事もなくその場で水槽を持ったまま立ち尽くしてしまう。


扉の開閉を風の音で感じ、外でエンジンのかかる音がしてすぐに走りさる物に変わると思った。


でも予想外にも聞こえたのは再度の風の入り込む音。


思わず振り返ってしまうと今帰った筈の玄がいた。



「・・・・すまん・・・忘れてた」



気まずそうに私に近づく玄がケーキ屋の名前が入った箱と何やら造花で出来た何かを近くに置いた。


視線でそれを追って、しばらく見つめた後に答えを求めるように玄に移すと。




「えっと・・・土産と、・・・ブーケに使った花が残ってさ・・・。まあ、オマケだ」




そう言うと呆然とする私を残して踵を返し再び扉の向こうに消えてしまった。


扉が閉まる瞬間、玄がくしゃみをしたのが聞こえ、その後は今度こそ車の扉が閉まる音と走りさるエンジン音。


あっ・・・ストーカーが私の前から消えた。


いつまでもガラスの分厚く重い扉を見つめ、それでも手が痺れてきて手にしていた水槽を元の位置に戻していく。


ああ・・・、商品を渡すことなく追い返してしまった。


選んでいた水槽の淵をスッと指先で撫でてから玄が欲しがっていた魚を見つめる。


あの横顔は・・・・・嫌いじゃない。


嫌味なあの人の笑顔じゃなく・・・純粋なそれだった。


水槽の中で自由に動くそれから視線を玄の置いていった物に移すと、ゆっくりとそれに近づいて手を伸ばす。


白い箱をゆっくりと開ければ甘い香りに目の保養にもなりそうなケーキの数々。