あっ・・・・煙草の匂いと・・・苦い苦い味。


玄のキスは大嫌いな煙草の味がして本当に嫌い。


なのに身体を熱くする媚薬の様な甘さをどこかで混ぜてくる。


背徳感と、危険な甘さに混乱してどうしようも出来ない恐怖に涙が出る。






だから、玄が嫌い。




だから、玄が恐い。





なのに・・・・、


優しくキスなんかしないでよ。



ああ、全部が矛盾だ。





だから私は【玄が嫌い】




それでいいんだ。



すぐにでも引き離したい衝動はあるのに、両手が水槽で塞がれて玄のなすがまま濃厚なキスを受け入れるしかなく。


静かな小さな水族館に水槽のポンプ音と玄と私の吐息が響く。



「んんっ・・・あっ・・やめっ・・・んっ・・・」



何とか抵抗の言葉を口にするのに黙れとばかりに舌を絡め取られる。


扇情的なリップ音が響けば嫌でも耳に入って羞恥が駆け登り、同時に恐怖で涙が零れた。


それに反応したようにようやく私の唇を解放すると妖艶な微笑みで私の頬を伝う涙を拭う玄。


その仕草がいたわるように優しい物であるのが余計に憎らしい。




「やり過ぎたか・・・。わりぃな。」



絶対悪いと思っていない笑顔でまた煙草を口にする。


ああ、本当に大嫌いだ。


こんな事位で泣く本来の自分をなんでこんな嫌いな人に曝さなければいけないんだろう?


涙でぼやける視界に映るのは私を妖艶に微笑む意地の悪い男の姿。


それに耐えきれなくなると視線を落として現実から逃げるように目蓋を閉じる。




「・・・も・・、嫌だ・・・。帰ってよ・・・」


「・・・帰ったら、お前は寂しいだろ?」


「寂しくない・・・・」


「・・・・俺は寂しいよ」


「っ・・・・・」



言われた言葉に瞬時に反応したのは心臓で、強く跳ねたそれに反応して目蓋を開けた。


私を抱きしめていた腕にわずかに力がこもって、より密着した体に緊張が走る。


そして嫌ってほど絡む煙草の匂い。




「美咲・・・・俺の女になれよ・・・・」



耳元に囁かれたのはもう何度も言われた言葉だというのに、なぜかゾクリと反応した自分に驚いてあわてて玄を引き離した。


おかしい、おかしい・・・・。


だって・・・私は・・・。