「あっ?何が?」


「・・・・【無責任】とか言って」



謝っている理由が分らないと怪訝な顔をした玄を一瞬だけ確認すると、すぐに外して口を閉ざす。


さっき水槽の魚を見る玄の表情は中の魚を愛おしむ様にも見えて、私の発言は偏見的な物な気がして自己嫌悪に陥りそうだった。


だから口にしないとスッキリ出来ず、それでも素直じゃない私の行動は背中を付き合わせての謝罪になる。


そんな私を全て理解してるかのように笑う玄の声が微かに聞こえ、今度ははっきりと言葉として私の謝罪に返していく。



「ふっ・・・、美咲は変に正直だよな」


「何よそれ?」


「自分の気持ちには嘘つきなくせに、それ以外の事には嘘つきでいられない」


「意味わからないんですけど」



ようやく玄を振り返ると、玄はニヤリと私の長い髪をはらりと触った。


髪の毛一本一本がその感覚にゾクリとする。


はらりと全ての髪が落ち着きを見せるより早く言われた言葉。




「なぁ、いい加減



俺を好きって言えよ」






玄の突然の要求に開いた口が塞がらない。


自意識過剰か?!


なんで私が玄を好きな事前提で話を進めるこの男。


水槽を手に立ち尽くす私を玄は期待に満ちた目で私を見つめてくる。


だけども呆れたように溜め息で返すと嘆かわしいと自分のはっきりと存在する事実を口にした。




「・・・・無い。言ったでしょ、好きな人はいるって」


「好きな人・・・?ああ・・・・、言ってたけど。まだ好きだったん?俺がいるのに?」


「貴方を好きだと思った事も「好き」って言った事も1ミリも一度もないんですけど・・・・」


「絶対、俺の方がいいって・・・・・そう、全部・・・ね」



「それは私が判断するこ・・・・」





油断した。


完全に警戒心を解いて背中を向けて話していたのが玄に再び隙を与えた。


含みのある言葉に気づけず、振り返った瞬間に再び塞がれた口にさっきの言い切れなかった言葉が泳ぐ。


それを絡めとって飲みこむ様に、玄の舌が私口内を犯すから頭の芯がぼぅっとしそうになった。