ああ、本当にいちいちムカつく男だこいつは。
イライラするのはまだ唇にあの感触が、口内に煙草の味が残るから。
それを誤魔化す為にゴシゴシと唇を擦って痛みに耐えた。
だけど耳に入りこむこれまた突拍子もない玄の一言。
「ふーん、売り上げに貢献すれば来ていいのか?」
「はっ?」
私の嫌悪感溢れる行動をバカみたく楽しんで見ていた玄が私の言葉を武器に反撃態勢に入ってきた。
驚く私を他所に、ぐるりと視線をまわりに走らせ何かを定めるとゆっくりと指先を一つの水槽に向ける。
「そしたら、この水槽の魚・・・、そうだな5匹くれよ」
「無責任。そんな理由で生き物を飼わないでよ。世話もまともにするつもりないくせに」
ここに来る理由に生き物が犠牲にされたんじゃたまったもんじゃない。
利己的な理由に憤慨してあからさまに嫌悪の視線を向けてからそれをそらした。
だけどそれに反して静かに返ってきたのは、
「俺は欲しいと【本気】で思わなきゃ欲しがったりしねぇよ」
「・・・・っ・・・」
「いつだってそうだ。逆にいらないと思うものには執着しない」
静かに響いた言葉に声がでない。
だっていつもふざけた調子の玄が真顔でそう言ったら本気で言ったと取るしかない。
それを証明するように自分が示した水槽の中を泳ぐ魚を食い入るように見つめる玄が、不意に口元に弧を描き魚を愛でる。
ああ、コレは・・・本気だ。
「・・・・水槽は?」
「ん?無いし、飼い方分からん。だから必要な物全部くれ」
「必要な物って・・・・、結構色々入用だし飼うのはそんなに簡単じゃないんだけど・・・」
と、言ってもこの人は飼うって言うんだろう。
そう理解すると渋々大小様々な水槽の中から丁度いい大きさの物を選びその中に必要な物を詰めていく。
チラリと玄を見ると水槽の中の鮮やかな魚をただ見つめている。
「・・・・・ゴメン・・・」
小さく玄に向かって背中を向けたまま言葉を吐きだせば、背後で玄が声に反応して振り返った感じがあった。



