そんな私にゆっくりと近づいて絡みつく煙草の匂いと煙。
ああ・・・大嫌いだ。
全て全て・・・その巧妙で狡いタイミングでさえ。
玄はいつだって私のタイミングを読んでいる。
キスをして私の限界ギリギリでそれをやめて、困って翻弄された私を見て楽しむんだ。
全てを計算して私に近づくこの男は私が知ってる中で一番危険で関わってはいけない男だったのに。
「美咲・・・こっち向けよ」
「・・・・嫌・・」
「・・・・美咲・・・」
慣れ慣れしく呼ばないで・・・・、私をただ翻弄して楽しんでいるだけのくせに。
「も・・・、帰ってよ!毎日毎日、本気でストーカー被害出すからね」
「ふーん、・・・そう言われ続けて1週間は立つよな?美咲」
お前はしないだろ?
そんな言葉が続きそうな玄の言葉と視線が私の熱く弱った心を刺激する。
嫌い嫌い嫌い・・・・・大嫌い・・・・。
私はこの男が嫌いだ。
・・・・そして、
怖い・・・・・・・。
本来人見知りにも近い私は普段からそれを補う様に自ら心を閉ざしていて。
相手が男の人なら尚の事。
その存在が理解出来なくて、自分の範囲外である存在が近づくのは恐くて耐えられない。
だからこその拒絶。
だからこその攻撃的な言葉。
もう近づかないで、私を嫌って。
そんな願望も含めて日々この男にぶつけているというのに、私の言葉をむしろ楽しみ喜んで毎日押しかけるストーカー。
しかも特に何をするでもなく煙草を吸いながら水槽の魚を眺めて私と愉快な戦争を繰り広げる。
全部が全部この男の策に感じて腹が立つ。
そんな今でさえ気がつけば20分は意味もなく居座っていて、営業妨害だと正当な理由づけを味方にようやく玄に挑みかかった。
「ねぇ、仕事中なんでしょ?早く帰りなさいよ」
「俺は優秀だから、仕事に遅れを出すような事はしねぇよ」
「それで、私の仕事に遅れをきたしにやって来たわけ?」
「いや、愛を深めに」
「売り上げに貢献しない人は帰ってください」
どの口が愛とか抜かした?!
全く【愛】なんて純情な物を持っていなさそうな男に一睨みし、舌打ちもプラスしてやろうかと思う気持ちをなんとか胸に押さえこんでみた。



