私の働く店はそこそこ人通りのある商店街の中にあり、目の前にはこの辺では割と品ぞろえのいい本屋がある。


自分が身を置いているその空間を説明すれば、コポコポと水音だけが静かに響く小さな水族館の様なフィッシュショップ。


細長く両サイドを水槽で覆い尽くされた空間の一角にお気持ち程度にレジカウンターがあり、そこに設置されている丸椅子に座って本を読むのが私の日課。


そうそうフィッシュショップが込み合う事もなく、水質管理や掃除が終わってしまえばほとんどが空き時間と言える。


お昼も過ぎ、もうすぐ子供たちも喜ぶ15時を時計の針が示しそうになるのに憂鬱になって視線を外した。


多分、今日も現れる筈。


思わず舌打ちをしてから小説の文字に視線を戻すのに、思い出す煙草の匂いや存在に苛立ちが募った。


そのタイミングを見計らってか外で車のエンジン音がして静かになるのに本格的にウンザリしてしまう。



ああ・・来たな・・・。



読んでいた小説にしおりを挟むとほぼ同時に入口の重い扉が開き、扉が開く瞬間に入りこんだ風がヒューッと音を立てて耳に残る。


だけど追って耳に入りこむ不快な声。



「おう、美咲。今日もヒマか?」


「貴方ほどヒマじゃありません」


「あれ?千夏さんはいないんだ」


「・・・配達よ」



このフィッシュショップは元々は自分の両親が経営していたもので、新店舗をOpenさせた後は両親は新店舗、旧店舗のこっちは昔からの店員の千夏さんと私で経営している。


その店に最近ほぼ毎日押しかけてくるストーカーに私は悩まされている。


しかし・・・昨今のストーカーは顔はいいと悔しながらも思ってしまう。


物珍しそうに水槽を覗く姿は無邪気な子供にも類似して、他の子ならときめく要素も満載なのだろうけど・・・。



「で?今日は何の用ですか?」


「おい、サービス業は笑顔が大事だろ。どんな客でも笑って出迎えろよ」


「お金も落とさず迷惑行為を落とす人はお客様とは言えないので。これと言って用事がないならお引き取りください」



嫌味にさっき突っ込まれたようにサービススマイルで、暗に「出ていけ」と指示すると。


今まで水槽に移っていた視線がフッとこちらに移動しその見た目だけはすこぶる美麗な顔がニヤリと笑う。


ああ、腹が立つ。