「さっきは…綺良さんのおかげで助かった…」

写真に背を向け話しだす。
意味が分からず首を捻ると、真っ赤な顔して告げられた。

「私、ノハラと…石坂君と旅行するの初めてなの…だから同じ部屋にされると困るとこだった…」

ただでさえ上がり症で緊張すると話せなくなるのに、どうしようかと思ったらしい。

「綺良さんが居てくれて良かった…一週間よろしくね」
「一週間?十日いるんじゃないの⁈ 」

電話を初めて受けた時、確かそう言ってた筈…。

「それは彼だけ。私は仕事のお休みが一週間だけなの。だからその間お世話になります」

ぺこりと一礼された。年上らしくなく、ちっとも威張らない。

「あ、どーも…」

ついこっちも頭を下げた。
遠慮がちな彼女の性格に、どうにも調子が狂う。
こんな人、自分の周りにはいないタイプだ。

(それにしても…学生じゃあるまいし、今回が初めての旅行だなんて…)

大人同士のお付き合いなら、旅行の一つや二つしててもおかしくないのに…。

(もしかして…付き合い出して日が浅い…?)

子供の浅知恵。そしたら付け入る隙があるかもしれないと考えた。

(だったらチャンスは彼女が帰った後だな…)

一人ほくそ笑む。取りあえず、一週間だけ我慢しよう。


昼ご飯の後、お兄ちゃん達は散歩へ行くと言って出て行った。
私は伯母さんの仕事を手伝うまでの間、いつものように一階の涼しい居間で寝転がってた。

「お兄ちゃん達どこ行ったんだろーね…」

微睡みながら聞くと、伯母さんは身体の向きを変えてこっちを見た。

「萌の墓参りに行くって言ってたよ」
「えっ⁉︎ 墓参り⁉︎ 二人で⁉︎ 」

ガバッと飛び起きた。
伯母さんはチラッと私に目を配り、すぐに知らん顔した。

「あんたには内緒にさせたんだよ。ゆっくりお参りさせてやりたかったから…」
「ちぇっ…なんでよー」

去年だって、お兄ちゃんの邪魔なんかしなかったのに…。
ぶすっと唇を尖らす私を気にせず、伯母さんは当然だろ…と呟いた。

「あんただって見たくないだろ。真ちゃんがプロポーズするとこなんか」
「えっ…⁉︎ 」

ギョッとする。コロンと私に背を向けて、伯母さんは大きく伸びをした。

「それは私の想像だけどさ」

ククッ…と小さな笑い。からかったんだ。

「おばちゃん性格悪っ…」

気が抜ける。でも伯母さんは大真面目。

「可能性大だろ。亡くなった恋人の前で、永遠の愛を誓うなんて。真ちゃんならしそうじゃないか…」
「しないよ!そんな悪趣味なこと!」

否定しつつも決め手にならない。
伯母さんの言う通り、お兄ちゃんならやりそうな気がした…。