とある怪盗の日常



「そろそろ仕掛けをしてくるころだろう
予告時間は午後の10時だからな」

「本当に10時にやってくるのでしょうかね」

「間違いない!」

日が沈み、夜のこと。
ある美術館には沢山の人がいた。
その人たちはただの人ではない。

警察だ。

彼らは今、張り込み中なのだ。
なぜならこの世を騒がせている怪盗Nがもうすぐやってくるのだから。

張り込み中二人の人物が話していた。
一人は警備員、もう一人は警部。
その警部の名は、佐野 樹。
彼は今、怪盗Nを捕まえるために毎回毎回現場にやってくる。

その二人が話しているとき…。

パリン!!!

ガラスが割れる音がした。
彼がやってきたのだ。

「なんだ!」

「佐野警部!奴が現れました!
怪盗Nです!!」

「何!?」

警察が騒いでいる中、一人の人物が上から笑みを浮かべながら、彼らの様子を見ていた。
いや、呆れながら見ていたのだ。

(あーぁ、またはずしたのかよ…。
今回は簡単なはずだぜ…。)

(相変わらず馬鹿だね。)

(全くだ。)

彼が現れた。
この世を騒がす怪盗Nが。

彼は警察にまぎれて簡単に手に入れたのだ。
今回の獲物、"エメラルドバッチ"を。

「そんじゃ、このエメラルドバッチはもらっていきますね。
佐野 け・い・じ」

「警部だ!」

「細かいなぁ、別に似てるからいいじゃん」

「よくない!!」

怪盗Nと佐野警部が出会うと、たいていはこの会話から始まる。
少し向きになる警部に、少年らしさを見せる怪盗N。
このやりとりは無意識なのか毎回の好例と言っていいほどに繰り返される。

「行け!奴を逃がすな!!」

「それ毎回使うよなー、名台詞?
まぁ、そんな必死な警部の方々に1ついいこと教えてやるよ」

「いいこと?」

「それ以上動くとー



警部たちが立っているところ爆発するから」

彼はまじめな声で言った。
それを真に受ける警部たちは皆、止まってしまった。
けれどそんなものは怪盗Nには持っていない。
彼は世の中を騒がせている以外は、ただの少年なのだから。

だから彼は笑いながら言ったのだ。
それは、新しい自分が気に入った玩具を見つけたように。

「あっはは!冗談ですよ冗談。
あまりに必死なので少し肩の力を抜くのを手伝ってあげただけですよ。」

「なっ!?いらんことをするな!!」

「いやー面白い、やっぱりあんたは飽きないよ。
けどな警部、正直もいいけど、正直すぎも駄目だぜケイブ?
あ、後これもらっていきますね!」

「くっそ!次は絶対に逃がさんからな」

怪盗Nはいい笑顔で警察のもとを去っていく。
追いかけるのを無理だと判断したのか、佐野警部は追いかけることをしなかった。

「あそこで捕まえればいいのにね」

「本当な、優しさにも限度ってもんがあるぜ」

その後家に帰ったと思われる、一人と一匹は会話をしていた。
猫のネオは呆れているように言うが、それに同意するハルトは少し嬉しそうに答えたのだ。

それはそうだ。

怪盗Nにとっては敵だが、本当の自分…、つまり中山ハルトとしてはその警部は親も同然だ。

ハルトには親がいない。
しかしもう一人の親といっていいほど、ハルトは佐野警部と共に過ごしてきた時間があった。