そこからいつ家についたのか記憶が定かではない。


気づけば制服のままベッドの上に座っていた。


わたし、どれだけの間正気を失っていたんだ。


でも、それだけ衝撃的だったんだよね。


ボフッとベッドに倒れ込むと、真っ白な天井が目に入った。



「……恭くんに、初めて名前呼ばれた」



あの声で……


ゴロンと転がってクッションに顔を埋める。


あぁ……ドキドキする。


心臓がせわしない。


恭くんと会ってから。


あの声に出会ってから。


思い出しては何度も恭くんの声を聞く。



……なんとなく、初めて聞いたときの声よりも名前を呼ばれた今日の方が温かい声に聞こえたな。


自分の願望かもしれないけど。



「おーい、六花。ご飯」


「兄さん……勝手に開けるのやめてよ」



わりーわりー、と言うけど全然反省した色が見えない。


我が兄ながら信じられない。



「つーか早く着替えろよ。制服シワになるぞ?」


「分かってる」



正論を言われてついムッとしてしまう。


普段があほだからだろうか。


余計に腹がたつな……



「着替えるから出ていって」


「はいはい。あ、あと」


「何?」



ズレたメガネを元に戻しながら兄さんの顔を顔を見ると、ニヤリという言葉がふさわしいような笑顔を浮かべていて。


背筋がゾクリとした。



「……顔、赤いぞ?」



恋でもしたのか?という言葉に思わずクッションを投げつけた。


一瞬先に扉を閉められて当たらなかったけど。


かなりムカついた。



「はぁ……」



わたしが恋?


何を言っているんだ兄さんは。


シュル、とネクタイを外し、ふと鏡に映った自分を見た。


……心なしか、顔が…いや、気のせいだよね。


電気のせい、兄さんのせい。気にするな。


ふるふると頭を振って兄さんのことを頭から追い出し、わたしは制服を脱いだ。