枢くんもわたしと同じことを思ったらしく。



「アリサ、これなんか多くない?」


「サービスよ、サービス!せっかく六花ちゃんみたいな子がいるんだもん!
印象よくしておきたいじゃない」


「アリサ……」



はぁ、とどこか重々しくため息をこぼす枢くん。



うーん、わたしの中でアリサさんは良い印象で残っているんだけど。


というかわたしみたいなのに良い印象を持たせて、アリサさんは何をしたいんだろうか。


よく分からない。



「気に入られたな」


「!!」



ぎこちなく横に顔を動かすと、すごく近いところに一ノ宮くんの顔が……



「気をつけろよ?
アリサさんってどっちもアリだから、お前すぐ喰われそう」



耳元でそんな風に囁かれて……正常でなんていられない。


一ノ宮くんの声、やっぱりすごい。


低すぎないセクシーなバリトンボイス。


まるでわたしの意思を失わせる薬みたい。



ずっと聞いていたい……



「おい、どうした?」


「…………あ」



またやってしまった。



「……聞いてなかったのか?」


「いえ、ちゃんと聞いてはいました。
ただ内容が入ってこなかっただけで……」



モゴモゴと口ごもるわたしに、一ノ宮くんはそれじゃ意味ないだろ、と呆れたように笑った。



そうですよねー。


でも内容もさることながら、わたしにとって一番大切なのは声ですから。



「こらそこ恭くん!!
六花ちゃんにヘンなこと吹き込まないでよ!」



バッとわたしと一ノ宮くんの間に入り、アリサさんはわたしを抱きしめた。


柑橘系の爽やかで自然な香り。


香水、じゃなくてシャンプーの香りかな。