生きることの意味【完結・加筆完了】


すると、着替えたのか、緋人があたしの隣にやって来た。
その表情はどこか険しい。


「緋人、お疲れ様」


そう声をかけるが、緋人は訝しげな顔をするだけだ。
さっきの事を気にしてるのだろうか。


気にする必要なんて、何もないのに。


緋人はあたしがカッコいいから惹かれるとか、そういう人間じゃないのを知ってる筈だ。
あたしはそういう人を寧ろ、敬遠タイプなのに。


緋人はぎゅっとあたしの手を握る。
それから、掠れた声を出した。


「……杏奈…。俺に、惚れなくてもいいけど…。
あいつに惚れるのだけはやめて」

「……緋人」

「出来たら、俺を好きになって欲しいけど。
でも、俺……」


言葉を詰まらせた緋人は、眉間の皺を更に深く刻む。
それから、痛いほどに強く握っていたあたしの手を解放する。


「ごめん。撮影終わるまで後少しだから、待っててな」


無理矢理笑った様なその笑顔が、痛々しかった。


「うん」と頷いたけど、あたしの笑顔もぎこちなかったに違いない。