気合い十分!

今日は宿題も少ないから、少しくらい帰りが遅くても大丈夫。
気の済むまで見てやろうじゃないか。

僕は軍隊並みの歩調で、おじいさんの待つ通りに向かう。

なんだこりゃ…

そこには人だかりが出来ていた。
歩行者天国で、大道芸をやってる人の周りにできる人だかりみたいに。
実際、おじいさんは大道芸師だから、願ったりなんだろうけど…。
この道で、こんなに人を見たのは初めてだ。
とにかく、僕はその輪に潜り込んで、おじいさんの姿を探す。

おじいさんは…

なんか、立派になってた…。

足元にあるのは、キレイなモノばかり。
おじいさんはこざっぱりした服を着てる。
顔つきだって、なんか最初に見たときと違って見える。

何だろ……

違和感を覚えつつ、とりあえずおじいさんの手品を見ることにする。
今朝より上手くなっているのかな?
期待して、おじいさんを見ていると、おじいさんは足元からキレイなモノを拾い上げて、それを握りつぶして壊してしまった。

ざわざわっ

周囲の人の群れがざわめく。
でも、おじいさんは気にしない。
壊れた品物を空中に放り投げると、落ちてきたときには元通りキレイになっていた。

「すご~い!」
「どうなってんだぁ?」

口々に歓声があがる。
僕も、思わず手を叩いてしまった。

…でも…どうやって???

確かに投げる前までは、壊れてた。
空中に舞い上がったモノを、僕はじっと見ていた。

それは、自分で治っていった…
時間を巻き戻すかのように。

僕には、そう見えた。

「おっさん、マジすげぇ。テレビとか出てんの? 名前は?」
ギャラリーの中から、フリーターっぽい若いにぃちゃんが、おじいさんに声をかける。
「テレビ?」
おじいさんが聞き返す。

テレビを知らない…?
まさかね。
テレビに出るって、どういう事?って意味だよね。

僕は自分で自分に答えを出して、二人を見つめる。
「マリックよりかすごくね? 種明かししてよ」
更ににぃちゃんがたたみかける。

おじいさんは、困ったように首をかしげてしまった。