昨日はあのまま逃げるように帰って来てしまった。
周りにいた人達はどうしたんだろう?
…そういえば、必ずあの場所にいるおじいさん…いつ家に帰っているんだろ?

僕は、昨日よりも更に早く家を出た。
期待と恐怖が交錯する。
通りにさしかかると、人影が見えた。
今日は一人きり。
近づくと、僕はがっかりした。

おじいさんじゃないや…

おじいさんと同じように、足元にいろんなモノを置いて立ってるけれど、それは若い男性だった。ただ、おじいさんに顔立ちが似てる。

息子さんとか…?

僕が立ち止まって見ていると、若い男性が、僕に向かってほほえんだ。

「ぼうや、見ていくかい?」

…え……??

僕は青ざめた。
おじいさんと同じセリフ。
何で??

「昨日はあの後、やりすぎてしまってね。誰も近寄らなくなってしまったんだよ。ちょっと困ってしまってね。ぼうやが見ていてくれると助かるんだけどね」

若い男性は、にこやかに微笑みながらそう言う。

やりすぎたって、何…??

僕の動揺をよそに、若い男性は、おじいさんと同じように手品を始めようとした。
空中に手を伸ばし、そこからキラキラ光る宝石のようなモノを出現させる。
それを小さくして、大きくして、消す。
また出現させ、砕いて、もとに戻す。

一連の動作はよどみなく、すごく自然だった。

「…この後、どうすべきだと思うかい?」

突然彼が僕に話しかけてきた。

「え?」
「この石、この後どうすればいいと思う? また、足元においておけばいいかな? それとも、消してしまった方が邪魔じゃない?」

…えっと…僕はなんて答えればいいんだろう?
こんなキレイな宝石みたいなモノ、消してしまうなんてもったいない。
でも、ずっと足元にあっても邪魔そうだし…

僕は返答に困って、ただ黙ってしまった。

「では、これは君にあげよう」

彼はそう言うと、僕の手にその宝石のようなものを置いた。

僕は辞退しようかと思ったけど、そのままそれを貰って学校にまで行ってしまったのだ。
…なんとなく、逆らえずに。