「あっ、やべ。俺ら呼ばれてんじゃん」
八城の首元を掴んでいた菊池は、そこからパッと手を離すと、今度は純平くんの手首を掴んだ。
はっ?!?!?!
「うおっ」
「ちんたらしてんな純平、八城ぶっ倒すぞ!」
「まだカズ出ない…」
菊池に無理やり引っ張られていく純平くんは、勢いについていけていない顔をしていた。
ってか、菊池!!
あいつなに純平くんの手首掴んでんの?!
羨ましいわ!!!!
「顔に出てるからね、美夜子」
「羨ましいです!!」
「やっぱね」
別に手を繋いでるとかそういうわけでもなかったけど、なんか羨ましかった。
同じ男子で友達だと、あんなにも簡単に触れられるんだもん。
まあ当然だけどさ。
「なあ、お前ら純平のバスケ見んの初めて?」
すぐそこで菊池と言いあっていた八城が、私の隣に座った。
それにつられて、私も芽衣も、同じようにその場に体育座りをした。
「初めてだよ」
こっちに戻ってから、の話だけど。
私はね。
「初めてー」
芽衣は初めてで当然だ。
私だって5年前は、この日初めて見たんだから。
「まじか。見ない方がいいよ」
「はー?なぜに?」
なぜか声を潜めて、しかも眉をしかめながら八城は言う。
純平くんのバスケを見るなとか、目の前に美味しそうなケーキがあってなおかつとても空腹状態にあるのに、絶対食べるなよと言われてるのと同じなんですけど。
もしくは息をするなと言われてるのと同じなんですけど。
「いや、お前らまじで、やばいよ?」
「やばいの意味を詳しく」
芽衣は八城のその様子が面白いのか、同じような仕草でそう聞き返した。
「あんね、言っとくけど、
………惚れるよ?」
八城がそう言った瞬間、試合が始まる笛がピーーーッ!と体育館に響いた。
それを引かれてパッと顔を向けると、最初にボールを手にしたのは、黒のTシャツ、菊池だった。
黒と、C組のクラスカラーである黄色が、狭いコートを行ったり来たりしている。
純平くんはまだボールに触れてはいないけど、軽く走ってる姿でさえ、引かれてしまう。
バカだな、八城。
惚れるよ?なんて、私をバカにしてるとしか思えない。
もうとっくに私は、純平くんに完全に惚れ込んでいるんだから。

