すでに黒の集団は私たちから離れていたけれど、また視界の隅に映る黒。
完全にそっちを見なくたって、それが誰なのかわからないわけがない。
「だってあのカズがいるんだし」
まだ履ききってないうわばきに指をかけながら、純平くんは顔を上げた。
少し伸びた前髪から覗く彼の目に、吸い込まれるような錯覚を覚えた。
あ、っぶな……
ドッドッドッと耳に響いてるのは、どうやらバスケットボールの音ではないみたいだ。
「八城がいるからなんだよ!こっちはお前がいるっつーの」
「いや俺全然活躍してないしね」
「てか八城じゃなくてバスケ部の力だろ、どー考えても」
「残念でしたー。得点源は俺でいっす!」
突然八城が私達の間に入りこんで来た。
あまりにも突然すぎて、多分変な声が出ていたと思う。
純平くんが、不思議そうな顔で私を見ていた。
よりによって純平くんに聞かれるなんて!!
「嘘つくなよ。お前はサッカーボールと仲良くしてろ」
「あんだと坊主コラ。お前のその頭で華麗にゴール決めてやろうかコラ」
「ああ?そのメガネ、伊達にしてやろうか?」
いつになく喧嘩腰の2人がなんだかおかしくて、もしかしたらそんな状況じゃないのかもしれないけど、私と芽衣は同時に吹き出してしまった。
だって、その話し方、すっごい似合わないんだもん!
「アハハハハッ!確かにお互いバスケ部じゃないしね!」
「菊池の頭蹴ってる八城見たい!」
「いや美夜子、笑うとこそこ!?」
私達の笑い具合を見て、満足そうに笑い合う菊池と八城は、さらに笑いを誘った。
ほんとこの2人おもしろい…
「笑いすぎ」
タレ目を細めて、優しく笑った純平くんが言った。
私の目を見て、言ってくれた。
「えっ、だって…藤咲くんは面白くない?」
「うん。面白い」
「ほらあ!」
球技祭の雰囲気のせいなのか、2人のおかげなのか、純平くんも純平くんでいつになくウキウキして見えた。
こんなに笑顔なの、久しぶりかも。
なんか、かわいい。
「ってか純平!俺はお前を倒す!」
「それこないだも言われたけどさ」
「お前アホか?バスケはチームプレーなんだよ!」
「うっせー!坊主は頭でも磨いてろ!」
「よーしわかった。そのメガネはあとで伊達メガネにしてやる」
また菊池と八城の言い合いになってしまったせいで、純平くんは蚊帳の外みたいだ。
だけどやっぱり楽しそうで、球技祭とかこの2人が面白いとかいろいろあるけど、単純に、仲良しなんだなって思った。
「男子ってほんとアホだね」
呆れたように言う芽衣も、やっぱり顔は笑ってる。
「ほんとだよね」
かくいう私も、同じだ。
でもきっと私は、純平くんが笑ってくれているから、もっと笑顔になれるんだと思うけど。
「ねえ藤咲くん」
「ん?」
「試合、がんばってね」
ん?の破壊力、恐るべし。
そしてよく耐えた、私。
「いいの、次B組が勝ったらF組とあたるのに」
「いーの!」
だって私が応援してるのは、B組にでもF組でもないんだもん。
私が見てるのは、たった1人だけ。
過去も今も、そして未来も。
純平くん。
あなただけ。

