「てか、Fまで来ちゃったね」
「んーん。じゃね」
純平くんは、今通った廊下をそのまま引き返して行った。
浮かれすぎて気づかなかったけど、いつの間にか自分の教室に着いていて。
しかも純平くんはB組から離れたここにむかってるのを気づいてるようだった。
わざわざ、送ってくれたのかな?
離れて行く背中を目に焼き付け続けていると、比例して胸が締め付けられる。
……ほらね。
そういうとこが優しい。
わざわざ送る必要なんかないのに、八城に絡むとかでもないのに、早くお昼ご飯を食べたいだろうに。
……あ〜〜〜〜
こんなの、好きになるばかりで当然だよ〜〜〜〜
ずるい〜〜〜でも嬉しい〜〜〜
矛盾した気持ちに震えながら教室に入ると、芽衣と八城が話していた。
2人は私に気づいていないみたいだったから、そのままこっそり会話を聞いてみた。
「あーもー立ち直れねー」
「まあなんていうか……初めて八城がかわいそうって思ったかも」
「どういうことだー!」
会話からして、八城の失恋話をしているみたいだった。
なんだ。私もその話聞きたかったのにい!
ただいまーと2人に混ざろうとした時、耳に入った言葉が私の動きを止めた。
「純平には彼女いるのにさあー…」
ドクン、と心臓が脈打ったのがわかった。
喉の奥がひどく渇いて、震える唇を閉じるのが精一杯だった。
…………ちょっと、待って。
違うはずだよ。
5年前の私は、こんな風にこの事実を知ってない。
それを知るのはもうちょい後のはず。
なのになんで………
「八城ー」
…どうしてこんな時に、一番聞きたい声が聞こえてしまうんだろう。
「純平!いいとこに来た!」
入って来た純平くんに駆け寄る八城は私には気づかない。
私の気持ちにも気づいていない。
だから。
「お前彼女いるよなあ!」
なんてことを私の目の前で聞ける。
あ、おかえり美夜子。と芽衣は気づいてくれたけど、私の片思いをまだ知らないから、八城の行動に呆れた顔をしている。
こんな状況で、大好きな人がいても振り向けるわけがなかった。
私だけが、その場にそぐわない表情をしていたと思う。
大好きな声が聞こえるのがわかっていたのに、思い切り耳を塞いでしまいたかった。
「いるよ」

