朱雀門に向けて晴明は歩いていたが、静かに立ち止まった。

「で、貴様は先程から何をしているんだ清水?」

晴明が目を向けたのは、渡殿の下だった。

しかし、反応が無いので晴明は足元を思いっきり叩いた。

「出てこい清水、今は私しか居らん。
呼んで欲しいなら話は別だがな…」

すると、下から声が聞こえて来た。

「分かったよ、晴明…出ればいいんだろう、出れば」

渡殿の下から上質な服装を身に付けた16歳ぐらいの男が出てきた。

「嗚呼、頭が痛い。晴明もう少し優しく床を叩いてよー。」

「私を謀ろうしたお前が悪い。
さっさと上がってこい。」

彼は渡殿に上がると面白そうなものを見るかの様に晴明を見た。

「なんだ、清水?
何か言いたい事があるなら、さっさと言わぬか。」

「いやー俺は只、晴明は相変わらず人気があるなーって思っただけださ。」

「正直、迷惑なだけだ。」


「またまたー、晴明も素直じゃないなー」

「で、今日は何の用だ?
只、私を冷やかしに来たわけではないだろう清水親王。否、春宮殿?」


晴明がそう呼んだ途端、清水の表情が曇る。

「晴明、俺は何度も言ってる筈だよ。
そう呼ばれるの俺、嫌いだって。」

春宮。

またの呼び名を東宮とも言う。

そう呼ばれる者は天皇の後継者を示す。

何故かは知らないが、清水はそう呼ばれるのが凄く嫌いだった。

それを知ってたからこそ、晴明は敢えて彼を地位で呼んだのだ。

「ふん、ちょっとした仕返しだ。」

そう答える晴明を見ると清水はハァと溜息を吐いた。

「晴明って、時々俺より子どもぽっいところがあるからね〜。
まあ、いいや。」

そう言うと清水の表情は先程の年相応のものではなくなり、大人びた別人の様に切り替わる。

「晴明は此処数年の間に妖や荒御魂の数が増えている事は知っているよね?」

「当然知っている。
其れが私達陰陽師の仕事だからな。
最も、霊力を扱える者は私以外居ないに等しいがな。」