此処は帝が治めし、大内裏。

後に京都と呼ばれるこの土地。

貴族は雅な遊びと言って歌を互いに詠み合い、自分の利益になる付き合いをしている。

そんな中、只一人。そうはしない者が居た。

「安部殿、安部晴明殿!」

一人の貴族の呼び声に反応して振り返る男、安部晴明は紫苑色の瞳を一瞬不快そうにした。

が、流石に自分より位が高い者を無視する事は出来ない。

仕方なく、話かけて来た人物の方を向いた。

「これはこれは、大納言殿。
どうなさいましたか?そんなに御慌てになられて。」

「うむ、実は娘が安部殿の噂を耳にしたらしくてのう。
是非、一度逢ってはくれぬか?」


予想通りの話に晴明は内心ハァと溜息を吐いた。


彼は男でありながら美しく整った顔立ちをしている。


噂を聞きつけた数多の姫君達は一目、その姿を拝もうと身内に頼んでくるのだ。


今回の場合もそうだろうと分かっていたからこそ晴明は溜息をついたのだ。


「大納言殿。私はこの後予定がこざいます。
申し訳ありませんが、姫君にはお伺い出来ませぬとお伝え願いますでしょうか?」


「うむ…しかしのう…」


「では、私は失礼致します大納言殿。」


大納言は何か言いたそうにしていだが、晴明はそんな事は全く気にする様子も無く優雅に歩いて行った。