「ダー・・」
「危なっかしいんだよ・・・」
いい加減にしろ!と言うつもりで口を開いたのに、不機嫌に立ち上がった彼が代わりに椅子に足をかけ、私が椅子に乗っても苦労していたそれを奥から難なく取り出し床に降りた。
そして不機嫌はそのまま表情に、「ん、」とぶっきらぼうに私に差出し、少しばかり呆気にとられたままそれを受け取ればプイッと背中を向けキッチンから離れ始める姿。
ああ、もしかして・・・。
気が付いた疑問を確かめるように椅子と鍋の入っていた位置を交互に見つめ、持っていた鍋をそっとキッチンに置くと背後の冷蔵庫に手を伸ばした。
そして冷えたビールを取り出し愛用しているビールグラスを2つ持つとキッチンを離れ彼が先に向かったリビングに歩いていく。
その姿は探すまでもない。
リビングのソファーに座り、不貞腐れた態度で手すりに頬杖つき無意味にどこかを見つめている。
そんな姿に怯むでもなく近づき真正面に立つとすぐに身をかがめて覗き込む。
「・・・ダーリン」
「・・・・」
当然まだ不機嫌の意思表示。
名前を呼んでも視線は絡まず、返事すらも返さない姿は子供の様だ。
いつもなら放っておくところだけれど、さすがに気が付いた善意に今ばかりは根気よく絡んでみる。
ビールとグラスを後ろのローテーブルに静かに置くと、ゆっくり彼の前にしゃがみ込んで覗き込むように見上げる。
ちらりと視線がこちらに移ったのに気が付く。
でも彼も意地なのかすぐにそれは外されて、かといって大きく拒絶するわけでもなくさっきのままの姿勢。
「・・・ダーリン、」
「・・・・・」
「ダーリーン?」
「・・・・」
意地っ張り。
どうもよっぽどさっきのことにご不満らしい彼は頑なだ。
内心では少し私の呼びかけにウズウズしているくせに、ここは意地を張り通したいらしい。
まぁ、
知ったこっちゃなく、突き崩しますけどね。
「ダ・ア・・・・リンッ」
「・・っ・・・」
呼びながら彼の膝から自分の人差指と中指を歩かせるように走らせれば、さすがに反応を隠し切れなかった彼。
すかさず私の手を抑え込みわずかに紅潮した不満顔で口を開きかけた瞬間にとどめ。
「茜・・・・」
「っーーー」
「心配してくれたんでしょう?」
「・・・っ・・とに・・、狡い・・・」
「ありがとう」
「・・・敬語じゃないのも狡い・・・」
「夫婦ですから」
「敬語じゃん・・・」
「ああ、もう、あなた限定で天邪鬼なんでしょうか」
フフっと軽く笑って目を細めれば悔しそうでもどこか嬉しそうにも見える姿。



