ーーーMIDNIGHTーーー
「冷めますよ・・・」
「うーん、」
「あなたが作ってとおっしゃったんでしょう?」
「も、もうちょっと、もうちょっと・・・」
すぐだから。と片手を上げ不満を漏らす彼女に形ばかりに謝罪を口にする。
でも自分の視線は終始スマホの画面にくぎ付けで、見ていた物はなんてことないスポーツの結果。
2人で家に帰って、彼女が作った夕飯を食べると習慣になっていた晩酌タイムに流れ込んだ。
そうしていつも以上にグイグイと飲んでいれば酒だけでは物足りなくなり、何か摘まめるものを彼女に要求して作ってもらった現状。
彼女がキッチンに立って、持て余した時間に何気なしに見始めたサッカーがなかなか面白い試合でのめり込んでしまい。
そして『出来た』と彼女が何度か促すのをなぁなぁに返事しズルズルとスマホを見つめてしまう。
「ダーリン」
「わ、分かってる、分かってる・・・」
「ダー・・・」
「おおっ!すげぇっ!!」
「・・・チッ・・・・」
最後に小さく響いた舌打ちはスマホの音声と自分の興奮で聞き取っていなかった。
うん、自分に非があるのは認める。
完全に意識が手の中の小さな画面のみに移行してて、でもそんな俺を一気に現実に引き戻した衝撃。
不意に顎に絡みついてきた指先。
その感触に驚いた瞬間には強引な力でグイッと強制的に上を向かされ、頬にさらりと何かが掠める。
「ーーーっーーーーーーー」
スマホから実況の興奮した声が『ゴォォォール』と響くのを茫然と聞き流す。
いや、ある意味ベストタイミング?
えっ?
あれ?
だって・・・・・、
キス・・・してーー、されて・・・る・・・・。
自分の唇にしっかりと密着する柔らかい感触。
さすがに分かる、それが指先や他の何かじゃないって事は。
密着して啄んでゆっくりと離れた瞬間に熱い息が唇にかかる。
そしてお互いの表情を確認出来るほどに距離を空けると、逆さまに映る彼女が何事もなかったかの様な無表情で俺を見降ろした。
「・・・・・・っ・・・」
「・・・これは、・・・お仕置きです」
「お、おし・・・えっ、・・・な、キ・・・」
キス・・・したけどぉ?!
そんな驚愕露わに首の痛さも忘れ彼女を見上げていれば、ニッと意地悪く口の端を上げた姿がそれを告げる。