ぼんやりと手帳を眺める。
もうそうしてどれくらいの時間が経ったのか。
書いてある自分の文字と内容は忘れたくても忘れられないほど記憶した長時間。
さすがにこれ以上は【時間の無駄】となりそうだから使い馴染んだ手帳を静かに閉じた。
『手帳に集中してるとその視線が欲しくなって手が伸びる』
不意に思いだした言葉と首筋への違和感で、咄嗟に首の後ろを押さえながら振り返ってしまった。
だけども映るのはすでに住み慣れてしまった居住空間のみで、自分以外の人気がないそこに小さく落胆。
落胆?
おかしな感情だ。
すぐに自問自答して何とも言えない複雑な葛藤に悶えると結果浮かんだのは。
「何の呪いかしら・・・・ダーリン」
さっき彼が残した言霊的セリフがいたるところで思いだされ、今程みたく浮上しては馬鹿みたいに反応している。
もう怨念でも後ろに張り付いているのではないかとキッチンにあるSALT(塩)の瓶を見つめてしまうほど。
そして同時に視界に入る【一応】の彼の夕食。
いや、彼と私の・・・。
何気なく時計に視線を移せばPM8:54。
もう明るい日中から何時間も不在の彼。
当然電話やメールの類もなく、私に対するいら立ちも収まっていないのだろう。
もしかしたら上手く今日の相手を見つけ本当に帰ってこないかもしれない。
ああ、そうしたらあの寝心地のいいベッドを独り占めできるじゃない。
ラッキーと思おうとした瞬間にそれを許さない怨念の声が響く。
『隣に無防備で寝られたら自分を抑制するのに苦労するし・・・・』
「知らないわよ・・・・、」
『無防備な部屋着スタイルにドキドキもするし心配もする』
「今時彼シャツに盛り上がるな。安いなぁ・・・」
末期だ。
姿のない怨念と会話している。
そんな非常識でクレイジーな自分の姿に我に返ると自分の頭を抱えるように手を添えた。
指先にさらりと触れる長い偽りの髪。
そうだ・・・、彼がいない今この姿を継続する事も無かったというのに、
「・・・・・習慣化・・・」
苦悶の表情で彼の望むままの習慣を癖付けられている自分にも落胆し、蹲るように膝を抱えればふわりと香るほろ苦い甘さ。



