「忙しくて・・・寂しい思いさせててごめんね。でも・・・家族が増えるならますます忙しいかもしれない」
「・・・我慢できます。・・・すみません、我儘で振り回してしまいました・・・」
「滅多にない我儘だしいいよ。それに電話で確認するより直に報告されたかったし」
そう言ってニッと笑う雛華さんが酷く穏やかに大人になったと感じて見つめてしまった。
雛華さんが手渡したのは未使用の妊娠検査薬の箱で、それを捉えれば皆言わずもがな・・・。
そして思い当るらしき芹さんの反応で検査をせずともその結果は見えている。
勿論陽性反応だった芹さんの2人目懐妊。
その瞬間に過去の時間も回想して懐かしくなる。
あの時とは状況は違うけれど。
あの時は・・・・羨望するだけだった2人の関係。
今は・・・・ねぇ・・・。
「では、奥様の奇行めいた来訪失礼いたしました」
「本当に申し訳ありませんでした」
苦笑いで頭を下げる芹さんに『大丈夫』だと告げて彼と二人で軽く手を振る。
雛華さんに抱かれた日華もバイバイと手を振ってきて、来年にはここに一人加わっているのかと思うと微笑ましい。
近くまた会いましょう。と約束を交わし幸せに満ちた家族を見送ると、扉が閉まった瞬間から何だか脱力して息を吐いてしまう。
それは隣に立つ彼も同様だったらしく腕を組むとゆっくり息を吐きだして、困ったように微笑んで私を見つめた。
「ははっ・・・なんか、賑やかだったね」
「この家で愛を深めるのがあの2人の儀式なんでしょうか」
「ああ、最初の妊娠宣言もここだったもんね」
「・・・・・雛華さん、【芹】って呼んでましたね」
「まぁ、連れ添って数年だし」
「あなたと私はビジネスパートナー時代から更に長いですけど」
「ん?千麻って常に呼び捨てご希望?」
「・・・・・いえ、なんか馴染みません」
「うん、だよね」
時々は呼ばれたりするし抵抗も拒絶もないけれど、常に呼ばれるとなると何かが違う気がする。
それは呼ぶ方の彼も同じらしく言って首を傾げてクスリと笑う。
「うん、やっぱり・・・俺は【千麻ちゃん】とか【ハニー】の方が親しみも愛情も込めやすいかな」
「私も、いきなり【千麻】なんてあなたが呼び出したら急に大人になられたみたいで落ち着きません」
「・・・・つまり、千麻ちゃんにとって未だに俺はお子様印象?」
「悪戯っ子でしょうか?気分は子供2人を育てている母の様な」
暗に翠姫と同等だと皮肉って返して小さく口の端を上げれば、不満げに眉根を寄せた彼が目を細めて見下ろしてくる。



