そして、触れることなく離れた唇と顔の距離。
離れながらすぐに横に背けられた顔はどんな表情なのだろう。
何か声をかけるべき?
手を添えて・・・、大丈夫かと・・・、
「・・・・・許容範囲ですが」
「・・・・・・・・はっ?」
自分が思ったとおりにそっと手を肩に触れて、ゆっくり探るように振り返ったグリーンアイ。
意地をはって不機嫌を見せるその目と視線が絡んで、咄嗟にその意地に合わせて同情的でない言葉を口にした。
一応・・・・私の優しさだったんですが。
同情されたくないであろう彼の為への。
それでも私の言葉に一瞬で何とも言えない困惑の表情と声を漏らした彼。
『意味が分からない』
そんな眼差し。
「きょ、・・・許容範囲?・・って?」
「キス。・・・・しようとなさったでしょ?そしてそれを特に阻むでもなかったというのに。
・・・何故しなかったのですか?」
そう、散々それを求め望んできたのを私がいつもギリギリでかわしてきていて。
今このタイミングではそれをしなかったというのに、今度は彼からその機を逃した。
そしてそれを誤魔化さず遠慮もせずに問いかける私は不躾なのか。
「・・・・だって、・・・千麻ちゃん俺の事見てないじゃん」
「・・・・見てましたが?それこそ瞬きしないほどに」
「そうじゃねぇよ。・・・・気持ちは空っぽだったでしょ?それで、・・・キスしたってどうせ・・・何かが当たった程度にしか感じないでしょ?」
「・・・・」
「そんなのが・・・・、夫婦になって初めてのキスなんて嫌だ・・・」
あ・・・ららら・・・。
ああ、・・・これは、
ちょっと不覚。
自分でも驚いた。
そうそうドラマや映画でも反応を示さない私が、目の前で不貞腐れつつも切なげに、そして僅かに照れている様な姿の小生意気な上司に小さくキュンとした。
でもまぁ、そこは私。
本当に僅かばかりの一瞬のそれは自分の意思で静かにおさめ、さすがの一言には自分も思案してから言葉を返す。
「まず・・・」
「うん、」
「【夫婦になって初めて】と言いましたけど・・・・それ以前もした事ないですよね」
「・・・・」
「それに、今更あなたがキス一つにそんな感情抱いているとは予想外でした」
目の前の綺麗な顔が不機嫌に歪む。
ああ、悪気はない。
ないのです。
ただ、性格上、そして相手があなたであるが故に正直すぎる自分が出てしまう。
これも5年培ってきた関係性のせいなんですよ。
と、言うのは私の5分後程の頭の反省会。



