正直、育児は気楽じゃない。
本当に勘弁してくれと溜め息を吐くのも度々。
型なんてない、ルールもなく予想外不規則な出来事に対応する時間は、規則的で大人同士の会社の仕事の方が楽だと感じるほど。
それでもこんな寝顔やちょっとした成長を垣間見た瞬間にすべて報われ乗り切れてしまうのだ。
かと言っても疲労がなくなるわけでもない。
寝顔を見て多少心は緩和しても蓄積されたものは明確に体を蝕んでいる。
だからこそ、彼を待っていようと思っても途中で睡魔に負けてベッドに倒れることが多いのだけど。
今日もこのままだと負けてしまいそうだ。
たまには、と自分なりに気張っていたけれどまったく帰る気配のない彼に諦め。
ずるずると先延ばしにしていた入浴を済ませようかとバスルームにその身を移し始めタオルや下着の引き出しに手をかけた瞬間。
耳に入り込む開錠音。
すぐに扉の開閉音と人が入り込んでくる気配。
その間に声らしきものは発せられず、でもその存在は当然理解してローカにその身を出して声をかけた。
「・・・おかえりなさい」
「・・・あ、・・・起きてたの」
一瞬、
そう、一瞬だけ絡んだグリーンアイは疲労を映して外された。
そしてその表情はそれが影響してかの不機嫌に近い物で、言葉も声音もそっけなくそのままリビングに歩み始める。
そんな態度に前の私ならどうしていただろうか?
と、一瞬冷静的な過去の自分を交霊でもするように目を閉じて回想。
それでも無情にも今の感情が勝る事を理解し溜め息をついて彼の姿をゆっくり追った。
リビングに入り込めばスーツに皺がつくことなどお構いなしにソファーに横たわる姿。
ああ、本当に疲れているのだとこの瞬間に分かってしまう。
そう・・・理解しても・・・。
私だって・・・・・疲れているのよ?
そう思ってしまう自分は理解のない女なんだろうか。
でも、疲れている姿に喧嘩を売るような言葉を向けるわけにもいかず、とりあえず【妻】として理想的である言葉を頭で反芻しながら彼を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「・・・あんまり、」
「・・・・ビールでも飲みますか?食事も食べた方が、」
「・・・・・翠姫は?」
「・・・・こんな時間です。寝てますよ」
「・・・・・千麻ちゃんも寝たら?いつもはだいたい寝てるじゃん」
ここまでの会話。
全く視線は絡んでません。
ソファーに横たわったまま光を遮るかのように彼の顔は腕で覆われていたから。