「驚いたよ。様子は茜に逐一確認入れてんだけどさ」
「逐一・・・ですか?社長、それは一歩間違えるとストーカーです」
「うん、茜にもそんな事言われたなぁ。でも気に入ってる物は常に現状把握してないと気が済まないんだよ」
「親子ですね」
「ん?何々?そんなに俺って茜に負けず劣らず若々しい良い男?」
「・・・相変わらず脳内に都合のいい翻訳機健在の様で」
「千麻ちゃんも相変わらずはっきり嫌味を飛ばしてくるから嬉しいよ」
にっこりと意地悪に微笑む男には勝てた試しがない。
だからこそこの場面も自分が折れる方が簡単に収集がつくと、ため息一つでその場の終幕。
そして相手にも伝えるように周りを見渡してから彼によく似たグリーンアイを見つめる。
「・・・・お話が、」
「成程・・・ここでは出来ない話って事だね?」
私の目くばせな含みにしっかりと理解を示した社長が向きを変えながら私をエスコートするようにエレベーターホールに歩き出す。
それに一瞬戸惑ったのは今の関係性。
前であるなら先に歩いてエレベーターのボタンを押したり、扉を開けたりするのが当然だった。
でも現状社員でもない私はこのまま彼の隣について歩いていいのだろうか?
そんな微々たる悩みを脳裏に歩いていれば、クスリと笑った男が私の思考を言い当てる。
「お客様でいいんだよ千麻ちゃん」
「・・・・了解いたしました」
「敬語だし・・・」
「社員でなくとも目上の方への礼儀です」
「でも、茜にもまだ敬語なんでしょ?」
「・・・・・あれはもう癖ですね」
他愛のない会話。
エレベーターに乗り込んでもこんな会話続きに久しぶりの掛け合いに懐かしさも覚える。
そして匂いも懐かしい。
ほろ苦いバニラの様な香り。
変わっていない。
品のいいそれはもうずっと昔から変わっていないと記憶を回想させた。
改めて確認するように視線を走らせた姿もさっきの冗談も冗談とは言い切れない程若々しくて・・・美麗。
そして似ている。
つまりは彼もいずれこんな雰囲気になるのだろうかと、うっかりぼんやりと見つめていれば。
しまった。
悪魔の微笑み。
瞬時に絡んだ視線と含み大有りな笑みに自分の失態のでかさを痛感しながら視線の逃亡。
まぁ、逃がしてくれないのは百も承知ですが。