そう、ここまで本気で怒り露わになるとその怒りを収めるのに苦労する。
そして滅多なことではここまでキレたりもしないのに、一体何が引き金になったやら。
ただ目の前の猛獣同士の威嚇の仕合をどう制していいのか分からずに茫然と見つめていれば、まったくこの空気を理解していない芹さんがにこやかに部屋に入ってきてピタリと止まる。
「・・・・どうしたんですか?」
「私もよく・・・」
苦笑いで組み合ったまま不動の2人の横を抜け、私の横にその身を降ろすとお茶を手渡してくる。
それを受け取りながら未だ動きのないその2人を見つめ溜め息をついた。
「・・・・もしかして、・・・千麻さんの事で喧嘩してますか?」
えっ?
響いた声は隣に座る芹さんの物で、『ああ、』と気がついたように弾いた言葉にどうやら2人を動かす威力があったらしい。
ようやく雛華さんが茜さんの上から退き不機嫌な表情で畳みの上に座り直し、彼も不機嫌を抱いたまま体を起こすと舌打ちを響かせる。
そんな2人を見て芹さんがやれやれとばかりに立ちあがると部屋を後にし、すぐにその手にタオルを握って雛華さんのところに戻ってきた。
「もう、せっかくこうして茜さんが来てくれたんですから喧嘩したらダメですよ?」
「知らないよ。勝手にキレて水ぶっかけてきたんだし」
受け取ったタオルでワシャワシャと頭を拭いている雛華さんの言い分は正論だ。
突然不機嫌に水をぶっかけたのは彼で、どちらに非があると聞かれたらきっと・・・。
「はぁ・・・、すみません雛華さん。ウチのキチガイ男が暴挙に・・・」
そこまで言葉にすると舌打ちを再度響かせた彼がおもむろに立ち上がり、その目に苛立ち露わに私に近づくと乱暴に腕を掴んだ。
さすがに僅かばかりの痛みに眉根を寄せ、でもそのままグイッとその身をあげられ立ち上がると縁側に強引に引っ張られた。
「帰る」
その一言。
でもその一言に変わらぬ不機嫌を命一杯に乗せている今、不満はあれど従っておく方が後々面倒でないし。
何より雛華さんと芹さんに変なとばっちりをくらわすのは申し訳ない。
すでに彼の不機嫌の被害になった雛華さんが不満顔で彼を見つめているのに眉尻を下げ頭を下げると。
さすがに私には苦笑いで手を振ってくれる。
ああ、すみません。



