ゆっくりと目蓋を下して念じるようにお腹をさする。
治まるように、落ち着く様に。
引いて、
今はまだ・・・引いて。
ドクンドクンと強く響く自分の心音が平常でない自分を示してきて眉根が寄る。
こんな自分は嫌なのに意識してもままならない感情が苦しくて苦しくて。
そんな瞬間にトンッとお腹で動く気配に一気に感情が揺らされ涙が零れた。
でも意識はすぐに切り替えられる。
不意に揺れたソファーと背後から絡んできた腕とホットミルクの甘い匂いで。
「はーい、・・・とりあえず落ち着こうか?千麻ちゃん」
振り返ればにこやかに笑う彼が、どうやら背もたれを跨いで私の背後に座っていて。
首に巻きつけた腕を軽く引いて彼の胸に私の背中を密着させる。
「【みずき】も落ち着こうなぁ・・・」
そう言ってまだ張り残る私のお腹を撫でながら肩に顎を置いてくる彼に、今度は感情乱れることなく静かに受け入れホットミルクを見つめる。
甘い優しい香りと立ち昇る湯気がアロマみたいだと感じ、そしてお腹をさする彼の手のぬくもりが更にリラックスさせ力が抜ける。
彼の言う事を聞く様に張りも引いていき、その張りと一緒に不安もゆっくり引いていけばようやく平常心が顔を出せる。
「・・・・・ホットミルクなんて作れるんですね」
「千麻ちゃん・・・馬鹿にしてない?」
「あなたの料理に関する芸術的センスを目の当たりにしてますから」
「牛乳温めるくらい出来るよ」
軽く小馬鹿に彼を批評すれば分かりやすく不貞腐れた表情の彼に小さく口の端が上がる。
でも変な人。
さっきはこんなこと以上に理不尽な憤りをぶつけられて、その時は終始笑顔だったくせに今は見事表情を崩す。
その感覚の違いは何だろう?とぼんやり思いながら受け取ったホットミルクを口に運んだ。
「で?・・・・我が愛しき奥様は何がそんなに不安なの?」
「・・・・別に・・・何も」
「はいはい、溜めこまないんだよ?千麻ちゃんの事だから多分また真面目な事で自分を追い込んでがんじがらめになってたんじゃないの?」
「・・・真面目なのはいけないですか」
「はい、話逸らさない。一体・・・何に不安で、何に苛立って、【自分】に対して怒っているの?」
その問いにゆっくり振り返ればぶつかるグリーンアイ。
まっすぐに心の内を確かめるように見つめてくる目は本当に全てを見透かしている様に時々感じる。



