確実に弧を描いた口元。
それに反応して更に距離の狭まった雛華さんが目を細め頬笑み告げた。
「ほら、・・・可愛い。やっぱり笑った方が可愛いよ千麻ちゃんは」
なんて人。
私でさえ自分の笑顔は引きだすのが難しいというのに、こんな風に感情揺らしていとも簡単に引き出してしまうんだから。
そんなところにも称賛交えて笑みを強めた瞬間。
予想外に顔に降ってきた水滴に驚いて身を引いた。
そして頬に落ちたそれを指先で確認しながら目の前の雛華さんを見れば、茫然とした表情で私のそれなんてただ跳ねたに過ぎない水滴と理解する大量の水をポタリポタリと滴らせている。
何事?
と思考を巡らせたのは一瞬。
一瞬の後に低く危険に響く声。
「千麻に触ってんじゃねぇよ、誘拐犯・・・・」
ゾクリとする様な響き。
聞き慣れている筈の私でもそう感じた声の主をゆっくりと見上げれば、冷たいグリーンアイに静かなる憤怒を揺らし、その手に多分中身が入っていたであろうグラスを逆さまに持ち見降ろしている。
確実にその中身が雛華さん中心に上からかけられたのだろう。
一瞬は驚きで不動だった目の前の姿が、耳にした声にようやく目を細め、髪に滴る水を取り除くように髪の毛を静かにかき上げ声を響かせた。
「あ~・・・・・はは、」
ゾクリ、このトーンにも鳥肌が立つ。
特に言葉も発していないというのに不機嫌に切り替わった響きは彼に対峙し始め、そのグリーンアイに狂気を孕むとスッと先攻した彼を見上げた。
そして、次の瞬間にはーーー、
軽い振動が古びた床に伝わり自分にも与えられた。
何が起こったのか分からないほど速く、静かに威嚇しあった2人が一瞬の後にその態勢を変え私の目の前に存在する。
目にも留まらない程。と、いうのか。
一瞬、
そう一瞬で雛華さんがすばやく動いて、これまたどうやったのか彼をその場に組み伏せ見降ろす。
いや、【組み伏せ】だと彼がしてやられたようだ。
そうではない。
確かに床に押しつけられ雛華さんを仰ぐ形にはなっているけれどその表情はさっきのまま。
静かなる怒り。
焦るでもなくただ威圧して見降ろす獣を威嚇している様な。
そして倒された時に本来ならもっと振動あってもよかった筈。
多分、受け身を取った。
「・・・・・・ねぇ、ちょっとおふざけが過ぎるんじゃない?茜」
「それはこっちのセリフだよ雛華。芹ちゃんじゃ飽き足らず次は千麻ちゃん誘拐する気?」
シンと緊張感漂う様な空間に状況の読めない風鈴がチリンと鳴る。
ああ、分からない。
分からないけれど、嫌ってほど理解するのは・・・。
彼が限界に近いほど不愉快だって事。
ああ、面倒な・・・。



