あれ?
不意に気がついた事にようやく意識の覚醒。
あまりに仕事に集中しすぎていて気づくのが遅れてしまった。
と、言うよりもそのおかげで仕事に集中しきっていたのかもしれない。
つまり、現状が自分に適した空間になり変わっていて、シンッと静まった部屋に眉根を寄せて視線をようやく動かしたのに。
いない。
ご機嫌で歌っていた筈の彼の姿はキッチンにはなく、ただこれまた胸焼けしてしまいそうな程のバターの香りは充満していて。
多分2度目のそれも焼き上がったのだ。
それでももし成功であるのなら嬉々とした彼の鬱陶しいくらいの姿があっていい筈。
つまりは・・・。
カタンと座っていた椅子から立ち上がるとゆっくりキッチンに向かい、いないと分かっていながら覗き込んだそこにはこれまた無残に焼きすぎたアップルパイのお目見え。
ああ、これは・・・。
瞬時に察する彼の姿に何とも言えない感情で可笑しくもないのに口の端をあげて、そしてさっきより惨状に近いキッチンに溜め息をつきローカを覗いて寝室の扉を見つめる。
多分・・・不貞腐れている。
そう悟ってゆっくり歩き出すと視線を固定していた扉の前に立ち、特に躊躇うでもなく扉を開けると声を響かせた。
「そんなに自身をクリスマスカラーに染めたいですか?」
嫌味な言葉。
勿論意図として口にして、予想通りに不貞腐れベッドに仰向けに倒れてその顔を両腕で覆っている彼を呆れて見つめる。
一瞬本気で眠っているのかと思った。
それでも微々たる間をあけて響いた低く覇気のない声。
「いいよ。・・・どうせ学習能力もなく向上もないダメな男ですから」
ああ、相当不貞腐れて落ちている。
自虐的でどこか攻撃的な切り替えしに額を抑えてからゆっくりとその姿に近づいてみる。
動きも見せずにただピリピリとした空気を作り出している彼。
その姿を見下ろすようにベッドの横に立つと、それを意識してなのか私とは逆の横を向いて背中を向ける。
「・・・・だから言ったでしょう?失敗するのは予想済みだと」
「・・・」
「ただでさえ不得手なそれに初めから期待なんてしてません」
「・・っ・・・・」
「なのに勝手にあなたは自己を過大評価して望んだ結果を得られずにこうして不貞腐れて・・・・子供ですか?」
「・・っとに・・・・
悪かったねぇ!?子供ですよどうせ!!」
同情や慰めの言葉なく淡々と事実だけを彼に落とし続ければ、さすがにふさぎ込んでいられなかったらしい彼が勢いよくその身を起こすと睨み上げてきた。



