「千麻ちゃん、座ったら?」
「・・・・はい・・」
「おい、何で千麻ちゃんにだけ?ってか、何で人の奥さん『千麻ちゃん』とか名前呼び?」
「・・・・勧めなくても茜ちゃんは座るし、むしろ結婚して名字変わったのに『水城さん』もおかしいでしょ?」
「雛華さんが正論ですね」
「千麻ちゃん!?せめて奥さんだけは夫の味方でいて」
「・・・・・・その口がまともな言葉を弾けば、」
無理でしょうけど。
そんな続語を表情で浮かべ腕を組んで彼と対峙すれば、挑むような表情で見降ろしてくる。
だけどそんな空気にまた的外れだけども和む様な声を響かせたのは、
「ふふっ、なんかもう息の合った仲良し夫婦なんですね」
「だよね?むしろそっちこそ目の前で子作りしないで~。みたいな?」
と、私達の愉快な戦争を仲良しと捉えた【本当に仲良しの2人】を彼と一緒に無言で見降ろした。
ニコニコとべったり芹さんを背後から抱きしめている雛華さんも雛華さんだけど、それを動じず普通に受け入れている芹さんも随分と感化されたものだ。
そして思わず口から出たのは・・・、
「お2人程では・・・」
「うん、まず俺と千麻ちゃんそんな風に人前でべったりしてない」
冷静な私達の言葉にきょとんとし目を見合わせた2人が同時に同じ様に曇りない眼差しで私達を見上げると。
「「いいよ(ですよ)。しても」」
多分、今ほぼ同時に私と彼は同じ表情をしただろう。
確認していないけれど多分。
そしてこう思った筈。
天然様には勝てない。・・・と。
しかも2人。
そして言われたように一瞬彼とそんな風に和む姿を想像したけど違和感で鳥肌が立ったのは内緒にしよう。
そう思った矢先、トントンと肩を指先で叩かれ眉根を寄せて隣を振り向く。
捉えたのは特に嫌味な表情もしていない真顔の彼。
何の用だ?とばかりに組んだ腕をそのままに見つめ上げれば、真顔のままスッと軽く広げられた両手。
頭に疑問符たっぷりに更に怪訝な表情で見上げた瞬間。
「一応してみる?俺の胸に飛び込んでみる?」
「・・・・・それをするには準備不足で、」
「心の?」
「いや、手に握る・・こう、鋭利で切れ味のいい急所に届くような、」
「大丈夫だよ千麻ちゃん。・・・もうすでに君の素直じゃない愛の矢がこの胸に刺さってる」
「・・・仕損じました。じゃあ次は余計な妄想ばかり働く頭を狙います」
かなり嫌悪交えて返せば、噴き出しクスクスと笑う本当に愛によって寄り添っている2人の笑い声が耳に入る。
ああ、頭が痛い。
別に夫婦漫才をしに来たわけではないのに。



