「なんかなぁ・・・、想像以上に幸せそうで逆に波風立ててやりたい」
「本当に心底底意地悪い人ですね」
「クソッ・・・顔にらくがきでもしてやろうかな・・・」
そう言いながら眠っている【彼】の顔にその手を伸ばし何か悪戯を仕掛けようとした瞬間。
「・・・・・やめろ、」
「ああ、ははっ、起きた?ひーたん」
響いた声音に少しドキリとした。
スリーピングビューティーだったその顔に不機嫌を刻んだ姿が気怠るそうにのっそりと体を起こし、はらりと目を覆うほどの前髪が落ちてきたのを手でかき上げると長い睫毛の目蓋が上がる。
息を飲む。
ああ、いつ見ても相変わらずこの庭の様に純粋なグリーンアイ。
まだ若干の眠気を孕むその目がまずは悪戯に微笑む彼を見上げ、そしてゆっくりと私に視線を変えると一瞬の不動。
まどろんだ眼差しでじっと見つめてくる姿にまっすぐ見つめ返していたけれど内心鼓動が速くなる。
えっと・・・、何でしょうか?
どういう注目かとそわそわしながら寝起き姿の彼を見降ろしていると、不意に弾かれたように双眸見開き、何か言いたげな口が音を発さずゆっくり開く。
極めつけ人を指さし確認するように私の隣に立つ彼に視線を走らせてから再度私に戻った。
そして、半信半疑。
「・・っ・・・千麻・・・ちゃん?」
「・・・・・・・はい。この1週間でもう顔を忘れられていたんでしょうか?」
何故か確信を持てない様な声の響きで私の確認をしてきた【彼】に多少の嫌味を交えて返せば。
隣の旦那は噴き出しクスクスと笑い、目の前の【彼】はようやく確信し納得したように腕を組んで数回頷いた。
「いや、・・・むしろ今忘れそう」
「はっ?」
「だって、正直最初分かんなかったよ。髪長いと童顔だね千麻ちゃん。しかも私服だったし」
言われて自分の格好を思いだしようやく納得。
ああ、そりゃあ半信半疑にもなる。・・・か?
確かに【彼】の前ではスーツ姿に本来のショートヘアに洒落っ気のない眼鏡姿しか晒していない。
それが今日の私と言えばロングで前髪ありのウィッグ着用に、隣で何やら楽しげな彼がチョイスした私服に奪われたままの眼鏡。
確かにパッと見別人なんだろうな。
そんな風に理解すると一度全身を確認してから【彼】に視線を戻した。



