夫婦ですが何か?



このまま・・・。


そう、このまま・・・、


流れるままに全て解決すればいい。




こうしていればきっと・・・、




大丈夫。







気をゆるして、自分の緊張も警戒も懸念も全て解いて忘れて。


ただ目の前の甘ったるい行為に浸って溺れかけたタイミングに、彼の手がスッと背中に降りて私の体を引き寄せ彼の中に包まれる。


懐かしさと愛おしさの最高潮。


これ以上ないくらいの開放感を得た瞬間。




『堕ろそうとしたの?』




絶対的な牽制のように脳裏に記憶した声が響いた。


瞬時に反応した体がビクリッと跳ね、思わず閉じていた目蓋を開けてしまった瞬間。


絡んだ驚愕のグリーンアイに・・・・絶望感。


そう思った瞬間から得ているぬくもりと感触に心底怯んで体が拒絶し、動揺露わに彼を引き離すと自分の体を包むように腕を巻きつけ蹲った。


動悸が激しい。


呼吸が荒い。


あっ・・・・・涙が・・・零れる。



「・・・千麻ちゃん・・・」


「触らないでっ!!」



冷たい空気に自分の声がやけに大きく響いた気がした。


そしてその声を客観的に捉えて悲しくて涙が零れた。


涙が零れてしまえば・・・・・もう決壊。


堪えて押さえても零れる嗚咽が虚しく響いて風に流されていく。


そんな横で無言で身を置いている彼はどんな心境なんだろう。


これが怖かったのに。


こうして首尾よく事が運んで期待して。


期待して、期待して、己惚れて。


うっかり馬鹿みたいに淡い期待や夢を馳せて、そして現実に突き落とされる。


この恐怖に怯えて警戒していたのに。


結果・・・・こうなった。


誤魔化して触れ合っても本質的には何も変わってなくて。





私は彼に触れない。



私は彼をまだ許していないんだ。






私と彼以外がこの一瞬にも変化していっている。


海だっていつの間にかさざ波立って、風の向きでさえ多少さっきと行く先を変えて。


なのに・・・・・私たちは・・・・変われない。


それが・・・・答えだ。


どこかでそう結論が出てゆっくりと目蓋を閉じてすぐに開く。


ぼんやりとした視界に反射する海を捉えて皮肉にも綺麗だと感じた。


もう・・・・・・ここには来ない。


そう心に決めようやくふらりとその身を起こすと防波堤に手をついてゆっくり立ち上がる。


どうやらずっと私の隣でどうする事も出来ずに見つめていたらしい彼を横目に感じて。


それでも振り返るでもなく背中を向けて歩き出し一言。



「・・・・・帰ります。メモリは・・・・郵送してください」



そのままフラフラと歩き始めれば当然の事ながらすぐに背後に迫る気配。



「千麻ちゃんっ、」


「・・・・」


「ねぇ、待って・・・、まだ終わってない」


「っ・・・」


「千麻ちゃーーー」


「やめて!!」



彼の呼びかけを断ち切って、拒絶して、嫌悪する。


そんな声を響かせたと思った。