「・・・・・ねぇ、」
「・・・・はい、」
「・・・・・・顔・・・触っていい?」
「・・・化粧が崩れるので嫌なんですが」
「ははっ、・・・照れ隠し?それとも恐い?」
「・・・・・どちらも私の損になる選択しかないですね」
嫌味にそう返せば困ったように笑った彼が、彼なりの解釈で了承としたらしく、黒い手袋に覆われた手を躊躇いがちにそっと私に伸ばすと静かに触れた。
革の質感が冷たいと感じて強張ったけれど、懸念したような緊張感は生まれずに心底安堵した。
それを伝えるように閉じかけていた目蓋をはっきり開けると彼のサングラスの奥の目を見つめる。
充分に意思が伝わればフッと柔らかく微笑んだ彼のもう片方の手も反対側に触れ、両頬を包まれるような形でまっすぐに見つめられた。
「・・・・・・千麻ちゃんは綺麗だね」
「5年間一度も興味なんてわかなかったくせに」
「だって、異性っていうより・・・家族みたいな感じだったんだ。しっかり者のお姉ちゃんみたいで」
「こんな風になるんだったら一生それでもよかったのに・・・」
恋愛感情が芽生えなくても目的同じとしていられたならあのままでよかった。
でもそれは・・・こんな結果になったから思ってしまう感情?
私の言葉に同調も反論もしない彼が少しばかり寂しげな笑みを浮かべ、頬を覆ったまま指先で巻き込んだ髪の質感を確かめる。
「やっぱり・・・・髪の長い千麻ちゃん好き」
「単純ですね。髪の長さに女らしさ感じるタイプですか?」
「そうじゃないよ。でも・・・しいて言えば・・・・俺が千麻ちゃんを異性として感じてみた瞬間がロングだったからかな」
「・・・・・・いつですか?」
「もちろん、」
彼が示す時間がいつを現わしているのか、疑問に方眉あげて問いかければ、瞬時に悪戯っ子のように笑った彼がパーカーのポケットから携帯を取り出し待ち受けを表示する。
そして自信満々に私にかざしたそれに唖然。
「まだ・・・そんな写真・・・」
「だって~、記念すべき俺と千麻ちゃんの結婚式の写真じゃーん」
「私しか写ってないように感じますが」
「だから俺、自分の写真待ち受けにするようなナルシストじゃないって」
言いながらその画面にチュッと口づける彼に引いていいのか怒っていいのか。
「その携帯・・・奪い取って持ってけばストーカーの証拠になりますね」
「相変わらず俺に対しての愛情表現が天邪鬼だなぁ」
「私のこれを愛情表現と置き換えられるあなたには軽く尊敬すらします」
「おっ、やったぁ、素直に褒められた?」
「馬鹿にしてるんです」
いくら詰っても嫌味をぶつけてもおふざけ姿勢の彼に苛立ち、自分に触れている手を無理矢理どかそうとその手を掴めば逆にぐるりと返され手首の拘束。
何のつもりだと呆れ半分の睨みを上げれば、一瞬だけ彼の表情を捉えてすぐにその距離を埋められた。



