心地のいい振動と音が空気に混ざり始めると、もうだいぶ順応した体が自然と彼にその身を寄せる。
彼が促すより早く巻きつけた腕に一瞬彼の動きが止まった気もしたけれど確証はない。
すぐに走り出した車体と風に身を預け、彼の言う私にも重要である最終目的地にすべてをゆだねて目蓋を閉じた。
流れる景色を何の気なしに流して、時々彼の匂いを意識して風を受けていればその変化に気がついた。
そうして改めて景色を捉えればその目的地はもう明確に理解する。
ああ、確かに。
この場所は私たちにとって大きな変化を迎えた場所であると皮肉に口の端を上げる。
つまり・・・彼にとってもやはりここが一番私たちの折り返し地点だったと感じているという事か。
風が街中より冷たい。
匂いが鼻につく。
季節的にはどこか受け入れがたい潮の匂い。
でも・・・・・あの日の海に似ていると感じた。
バイクを止めて言葉を交わすでもなく各々地面に足をつける。
無言のまま一度海を見つめ、やっと隣に立つ彼を振り返ればほぼ同時に彼も振り返り視線が絡んでクスリと笑った。
「やった、デスティニー」
「偶然でしょ。いちいち運命づけるほどロマンチストでもないくせに」
「ま、それはお互い様でしょ?」
ニッと笑った彼が先に歩き出すと防波堤に向かって歩き出し、その姿を追ってなびく髪を押さえながら歩き出した。
行く先は分かってる。
そしてその予想通りに過去に身を置いた場所で立ち止まる姿。
少し遅れてその場所に並んで立つと同じ向きに海を眺めてゆっくりと息を吐いた。
「本当に意外とセンチメンタルなところありますよね」
「意外とって、俺は別にそうじゃないって否定したこともないよ」
「じゃあ、やっぱりここに来たのはセンチメンタルを求めてですか?」
「まぁ・・・、何となく?」
「何となくなんですか?」
「何となーく・・・・、ここに来たらあの瞬間に回帰出来ないかなぁ・・って・・・淡く甘い期待をかけてたわけですよ」
「・・・・・そんなんで回帰出来たら人生こんなに複雑じゃありません」
「フッ、出たよ・・・現実主義者」
私のすっぱり断ち切った言い方に苦笑いを浮かべるとゆっくりその身を防波堤に沈める彼。
あの日のように。
それに付き合って隣に座ると風の冷たさやお互いの姿装いを除けばあの日のままだと感じてしまう。
穏やかと言っていい水面に光がキラキラと反射して、時々思い出したように柔らかくも強い潮風が横切っていく。



