程なくして今度こそは入口から姿を現す彼の姿。
買った物を嬉しげに抱えてバイクの傍で不貞腐れている私を捉え、再び笑いながら近づいてくる。
それに挑むように睨みつけるとすかさず掌を差し出し返却の要求をした。
もう十分に我儘に尽力し全うしたというように。
「もう十分でしょう?返してください」
「やっとリハビリの効果が出てきたところなのに?」
「別に私が望んでるわけじゃありません」
「でも・・・・・、もうちょっと緩和しないとキスも出来ないよ?」
「ああ、だったら私には朗報ですね。あなたとキスしたいとか一切ないですから」
にっこりと微笑んで見せ、差し出した掌の指先をちょいちょいと動かしてみる。
勿論、『早く返せ』の意。
もう十分だ。
これ以上の時間の共有は再び身を亡ぼすことになりかねないと危険予測。
うっかり絡んだグリーンで悟った。
まだ疼く自分の不安を。
まだ耐えきれる程度の失意で済んださっき。
でもこれ以上気を許して期待してからの落胆は感じたくない。
恐い。
小さく追体験したさっきの不安でまた彼に触れるのが怖くなった程。
なのに・・・・。
「ねぇ、・・・・アメ食べる?」
「・・・・・・はっ?」
思わず眉根が寄ってしまった。
全く予想もしない言葉に驚いている間にも、あっけらかんとそれを告げた本人はポケットから何やらアメらしきものを取り出し開封している。
これまた甘ったるそうないちごミルクのアメだと包み紙で理解する。
そして躊躇うことなくそれを自分の口に放りこむと、もう一つ残っているそれを私に差し出し『んっ』と促した。
しかし・・・・装いとアメ。
「・・・・・・怪しい人からアメを貰ったらもれなく誘拐されそうなのでいりません」
「相変わらず冗談きついなぁハニー」
「いや、客観的主観で見てもあなたはアメでつって誘拐しようとしてる犯罪者です」
「イライラには甘いものが覿面でしょ?ほらっ、」
馬鹿にしてるのか?
どうも私の方が過剰反応だと言いたげな雰囲気にムッとしつつ、一向に引き下げないアメをじっと見つめてから渋々摘まんで受け取ってみる。
そうしてとりあえず開封しようと両端を摘まんで引き中身を取り出そうとしていれば。
「千麻ちゃん」
「はーー」
顔を上げ『い』と言ったときには唇に押し当てられたビニールの様な感触。
それがアメの包み紙だと理解したのは香った甘ったるい匂いで。
でもほぼ同時に与えられた感触でそんな詳細はどうでもよくなった。
頬にこの冷たさと違和感を得たのは二度目。
プラス、唇への違和感。
本来あるべきでない感触が逆にしていることを意識させて不動になった。
薄い包み紙一枚越しの接触。
嫌に作られた甘ったるい香りのキス。



