ムッとしつつもお構いなしにそれを抜き取った彼がにこやかに手触りを確かめ私にもそれを示してくる。
「ね、どう?手触り」
『試して』
そんな感じに促されたものは手触りのいい黒いべロアの生地。
そう生地。
場違いにも私と彼がいるのは手芸屋の一角で、ネットで調べさせられていたのも一番生地が豊富な店の詳細。
調べている時から何故?と疑問ばかりで、今こうして選んだ商品を差し出されても疑問は尽きない。
どう考えても彼と手芸という接点が全く見つからないのだ。
「・・・・・今度はどんなおふざけを?」
「ん?ちょっとね。で?どう?手触り・・・、」
「・・・・・手触りで選んでるんですか?」
「うん、そこが一番重要かなぁって」
結局詳細については語る気が無いらしい彼を見つめ、すぐにその手の生地に視線を走らせる。
そしてゆっくりと触れその感触を覚え、すぐに他に並んでいる生地に指先走らせ比べていく。
確かに今のも手触りは良かった。
でも同じべロアの生地でも感触は様々で、多種多様で種類豊富なそれらを指先で触りながら確認していく。
その後ろで彼がにっこり微笑んでいるのは気がつかなかった。
その笑みに気がつかぬまま生地の選別に集中して、不意に止まる。
得た感触を確かめるように指先から掌に広げ納得。
触れたそれをシュッと抜き取ると自信を持って彼を振り返り口の端を上げる。
「・・・・・私なら・・・これを選びます」
文句なくこっちだろうと示して口にすれば、口の端を上げた彼がゆっくりと近づいてその生地に触れる。
指先で触れて、掌いっぱいで撫でて、どこか愛おしむ様な雰囲気に少しだけ疑問も感じたけれどそれは確認しなかった。
そうして十分に触れて確認した彼が数回納得したように頷くと私に視線を移した。
「千麻ちゃんが選んだものに間違いはない」
「恐縮です」
賞賛の言葉と同時に彼の持っていた最初の生地が棚に戻され、私の選んだそれが小脇に抱えられる。
ざわりと喜ぶ感情が煩い。
懐かしくもあり切なくもある。
そしてさっきの彼の言葉が思い出される。
本当に・・・・彼の今の秘書は有能なのかもしれない。
羨ましいと嫉妬する自分が見苦しいと、ゆっくり息と一緒に思考を吐き出した。
そして視線を上げればもうすでに距離のある彼の姿。
またか!?と、二度目の置いてきぼりに驚愕と同時に呆れ慌てて小走りにその後ろ姿を追っていった。



