もしかしたら今だけかもしれない。
彼の緩和効果強い言葉のおかげで今だけその不安が消えているだけかもしれない。
そんな不安で躊躇って、促されてもなかなか差しのべられた手を取るほどまで出来ず。
虚しく風だけがふわりふわりと横からすり抜けていく。
バイクのエンジン音も万全で『早くしろ』と促している様にも感じるのに。
なかなか足を踏み出せずに様々な物を一瞬の内に映しこんだ気がする。
「ついでに言うと・・・」
「えっ?」
「さっき・・・・『荒療治』とか『相手の意見を聞き入れない』というご意見に反論をするとしたら・・・」
「・・・・・はい、」
「楽な道と辛い道、どっちを進める方が相手の成長になるのか俺は考えてるだけ。
勿論・・・後者の意見には俺も反省してる。聞き入れることが必要な時もある。
なら・・・・両者を踏まえ、選択肢は千麻ちゃんに、」
「・・・・・」
「何の改善もしないけれど自分には楽な道と、苦しいかもしれないけれど進歩する辛い道。・・・・千麻ちゃんが選ぶのはどっち?」
綺麗に弧を描く唇。
『決めて』と言いたげに更にしっかり私に差しのべられる手。
彼らしく要求をつけつつ、でも私の意思も尊重しての選択肢。
でも・・・・狡い。
私の性格なんてあなたはお見通しで、この選択肢だってフェアじゃない。
明らかに負け組のように用意された答えを私が選択するはずもないじゃないですか。
だって・・・・・・私はいつだって、
あなたみたいな子供に負けるのは嫌だと思って無理難題に立ちむかっていたんですから。
カチリと音がした。
自分の中で、壊れていた歯車の一つがハマり直したような。
壊れた何かのほんの小さな一部だけども。
風が頬をくすぐる。
髪の毛の揺れて、気がつけば涙も乾いて張り付いていた髪も後ろに流れた。
引きずるように抱えていた重荷が軽減した気がする。
まだまだその重みは消えないけれど軽く。
動けなかったほどの重みは消えた。
そう感じると同時にカツンと自分の靴音が一度鳴って、それを確かめるように視線を落とし、そして音の継続。
カツン・・・・、カツン・・カツン・・、と、徐々に間隔狭まって響いて、気がつけばゆっくり浮上する自分の手。
茶系のピンクの爪がゆっくり空を浮遊して少し躊躇って止まってから・・・・・、トンッと静かに黒に触れる。



