そして指摘されてもなかなかその身を動かす事が出来ず、グリップをしっかり握ったままバイクに跨ったままでいれば。
クスリと意地の悪い響き。
それを示すように近づいた彼が躊躇いもなく私の後ろに跨り始めたと同時にウサギの如く俊敏に逃げ出した私。
「あははっ、素早い」
「・・・ってか、荒療治!!リハビリだと言いたいのかもしれませんが手袋ありの些細な接触でさえまだ体が強張るんですよ!?バイクなんてどうやって乗れば・・・」
「だから・・・・さっきも言ったじゃない?」
忘れた?
そんな試すような眼差しでバイクのハンドルに突っ伏すように身を預けた彼が私を見上げてニッと笑う。
しっかり・・・・覚えてるわよ。
出来ないと思う相手には期待しないんでしょ?
それは・・・期待されるだけ信頼されているという事。
でも、
でもね、
その期待が重い人だっているんですよ?
「どうして・・・・あなたはそうやって別れた後でも私に期待っていう重荷を課すんですか?」
「期待が・・・重荷?」
「重いです。・・・・・重すぎて、苦しくて、それに耐えきれなくて逃げたのに・・・・」
期待するのもされるのも・・・酷く疲れて。
いっそすべての繋がりを断ち切ってしまえば楽になるのだと思ったのに。
また、こうして・・・・あなたが目の前にいる。
「・・・・ねぇ、千麻ちゃん。それが重荷だって感じるって事はね、一度は持ち上げようと努力してるって事なんだよ?」
「・・・・えっ?」
不意に響いた言葉に落としていた視線をあげて、さっきまでバイクにだらりとしていた姿を見つめる。
だけどもその姿も不在。
今は体を起こしてしっかり座り直した彼が柔らかく微笑んで私を見つめる。
「最初から・・・要望に応えようとしない奴にはその重さは分からない。持ちもしないでいかに楽にそれを受け流すかしか考えてない」
「・・・・」
「でも、千麻ちゃんがそれを重荷だって感じるって事は、それだけ相手の望む理想を正確に応えようとしてるって事。
そして逃げ出すのは・・・・応えられないからじゃない。応えられなかった時の相手の落胆した姿を見たくないから。
この場合・・・・・触れなかった時の俺の傷つく姿を見たくないから・・・・でしょ?」
「自意識過剰・・・・、私は・・・自分の不安がこみ上げるのが怖いだけ」
「・・・・じゃあ、その不安の基になる物は何?良くも悪くも俺に関わる事じゃなくて?」
悪戯に笑う男。
変わらないと思った。
いつだってこの男こうやって私を翻弄して困らせてきたのだと。



