手の中でカチャリと鳴るそれを確認してから不服そうに彼を睨み上げてみる。
当然そんな物は通用しなくて、むしろ好反応だと言いたげにクスリと意地悪に笑った口元に心底腹が立つ。
「この時期になると・・・、なかなか言う事聞いてくれなくなってくるけど・・・・・、千麻ちゃんは得意でしょ?」
言いながらトントンと話題の主である物を叩いて示す彼に深く溜め息。
結局どうあがいたって振り回される今日なんだろう。
だとしたらそれなりに私も気合を入れて挑まなければいけないという事なんだ。
そう思った瞬間に何かに似ていると思った。
彼が口にする我儘に溜め息交じりに従って・・・・。
ああ、あれだ。
私達の最初の繋がり。
こんな感じに私は仕事として彼に尽くしていたっけ。
ゆっくり彼が寄りかかっている物に近づいていき、手の中の物をギュッと握る。
目の前に立てば『どうぞ』とばかりにその身をどけて私にその位置を譲る彼。
躊躇いながらも手を伸ばし触れる。
瞬時にこみ上げた懐かしさと、どこか切ない感覚。
それを掻き消すようにそれに跨ると、彼から受け取ったそれを差し込んで一気に片足を踏み込んだ。
嘘つき・・・。
瞬時にそう思った。
一回で心地いいと感じるほど耳に響いた規則的なエンジン音と振動。
彼のバイクのエンジン音は自分の波長によく合うと感じる。
耳に入り込むエンジン音にどこか安堵して口の端をあげれば、それを狙っていたかのように響いたシャッター音。
驚くでもなかったけれど反応して振り返れば口元に弧を浮かべた彼が携帯を掲げて満足そうにこちらを見つめる。
「さすが元族」
「失敬な。私の学歴はいつだってまっとうに面白みもない優等生な物ですよ」
「あははっ、そんな感じ~、三つ編み眼鏡で学級委員とかしてそうだよね~」
「あなたは適当に愛想振りまいて、ノリと勢いの軽い集団の真ん中にいそうですよね」
「ほら、優等生女子がちょっと軽い男と恋に落ちちゃうのはお決まりだからさ」
「やっすいシナリオですね」
「フフッ、ねぇ、そんな会話さらりと続けてるけどさぁ?もしかして引き延ばし工作してない?」
言いながら私を指さして意地悪にバイクにその指先をずらしていく彼。
その鋭い一言は的を得ている。
すんなりエンジンがかかってしまった今、いかにその時間を先延ばしにしようか苦し紛れに会話を続けていたのだ。



