体が硬直する。
声もあげられない程一気に心臓が暴れだして、キーボードの上で不動の指先が小刻みに震えて呼吸の仕方も忘れそうだ。
瞬きも忘れた目が乾き始め、そのせいとも言えない涙が浮かびそうになる。
でも、緩和剤。
「・・・・言ったでしょ。・・・力を抜いて、まだ・・・俺の肌には触れてない」
まだ直接的でない。
そう彼から吹き込まれて、癒すように・・・あやすように柔らかく髪に触れる感触に目蓋を下した。
おかしい。
この不安は、恐怖は、彼が触れたことで浮上したものなのに。
こうして静かに緩和させ沈めさせたのも彼によってだという事。
触れた瞬間こそは一気に緊張して畏怖したのに、優しい声と危害を加えないというような触れ方にどこかゆっくりと警戒が解けていく。
ゆっくりゆっくり・・・・・収まる動悸。
それでも名残の様に一筋だけ涙が伝った。
フッとその目に光を通してぼんやりとした意識でゆっくりと彼を振り返る。
彼と言えばいまだに柔らかく私の髪の感触を確かめるように遊んで、ゆっくりサングラス越しに視線を絡ませるとニッと笑う。
「有能だね。千麻ちゃん・・・・」
「・・・・・・」
「俺はね・・・・出来ないと分かってる相手に無理難題ぶつけるほど馬鹿な男じゃないと思ってる」
「・・・・・確認・・・お願いします」
絡んでいた視線を逸らし、向かっていたPCの画面を彼に向けた。
そんな私に苦笑いを浮かべたのは・・・、PCに映し出した私の【有能】ぶりになのか。
それとも・・・彼の期待の眼差しから逃げた事?
お願いだから・・・・もう私に期待しないで。
期待されたら応えたくなる。
いつだって・・・・無茶難題にも応えたくなって・・・、返される変わらない反応に依存度が強まる。
「さすがだね・・・・千麻ちゃん」
また一つ・・・・・濃くなる。
「賞賛頂くような調べ物ではありませんでしたので。この程度の事ご自分でお願いします」
「だってなんか件数多くて絞れないし。いちいち内容読むの面倒じゃない」
「じゃあ、行くの諦めたらどうですか?そもそもこの手の店にあなたが何の用事があるのか全く理解しがたいのですが?」
自分でも分かる可愛くない反応を返し、ついでに調べ物への疑問もやっと追及してみれば。
問われた瞬間から含みあるようにニッと口の端を上げた唇。
そのまま言葉を発することもなく携帯を取り出した彼が同じ画面を表示させて席を立った。