この笑い方は・・・・余裕がある時。
まだ、何かを切り札としている時。
記憶する過去が注意しろって言ってくるのに困ったように口の端を上げた。
彼には見えないからいいか。
そうして再度吹き込まれた彼の自信過剰。
「・・・・・千麻ちゃんは俺に会いたくて明日もこの店に来るよ」
「・・・・あり得ません。すでに脳内では新しい居場所としてどの店に移り変わろうか思案中です」
「でも・・・・会いにくる」
断言してスッと離れた体。
それに安堵した体がゆるゆるとその縛りを解いていって、距離を離した彼の顔にはすでにサングラスがはめ込まれていた。
多分・・・元は雛華さんの物である。
「・・・・絶対に会いに来ませんよ」
「ふぅん・・・そ?」
念のために自分の意思を再度響かせてみても軽い調子で笑いながらかわす姿が、不意に思い出したように再度私に近づき手を伸ばす。
一瞬緊張はしたけれどすぐに必要ないと自己判断。
伸ばされた手には彼のコーヒーのカップがあったからだ。
私の横を過ぎ後ろのカウンターテーブルにコンと置かれたそれ。
顔の向きは動かさずにちらりと視線だけ後ろに流してから彼を見上げて意味を探る。
その答えはあっさり彼から返されたけれど。
「・・・・千麻ちゃんのコーヒー、さっき俺がこぼしちゃったからあげる。まだ温かいよ」
「・・・・・人と回し飲みは好きじゃないです」
「知ってるよ」
ニッと微笑んですべて理解しているような口ぶり。
そうしてようやく私に背中を向けると歩き出す姿を複雑な感情で見つめてしまう。
振り返る事なく歩く彼は明日も私がこの店に現れると思っているのか。
「馬鹿ね・・・」
相変わらず・・・ドリーマーね。
そんな事を思って見つめ、彼の振り返らない姿が店を後にするのを見送りゆっくりと息を吐いた。
心底・・・・疲れたと感じる。
精神的に疲れて、でも、どこか・・・・・軽くなった。
彼本人に言いたかった事を少しでも言えたから?
ぼんやりと白昼夢でも見ていたような感覚に陥って、でも捉えたコーヒーのカップで現実だと理解する。
何の気なしにそれに手を伸ばして持ち上げれば、彼の言う通りにまだ温かい中身。
そして少し躊躇ってから中身をごくりと飲んだ瞬間に無性に切なく恋しくなった。
「・・・・・・策士」
これは・・・・私が好きなフレーバーだったのよ。
口に含んだ瞬間に気がついたそれは私の零れた中身と同じ物。



