夫婦ですが何か?




そうだった。


ここは公共の場であったのに随分馬鹿なやり取りで店の雰囲気を壊してしまったとぼんやり反省し。


不意に零れたままのコーヒーに目がいきテーブルにセットされてる紙に手を伸ばすと茶色の水たまりにそれを浸した。


仕事・・・しなきゃ。


紙にしみ込む茶色を見ながらそう思った。


早く自分の現在の姿に戻ろうと、彼を切り離そうと。




「・・・・・・触れ合わなくても・・・・、俺たちは生み出せるものがあるよ」




入り込んだ声音は柔らかく諭すような物。


反応して見上げたグリーンアイは酷く穏やかに微笑んで見下ろす。


だからなのか・・・、思わず反論もせずに彼の言葉の意味を待って黙してしまった。



「・・・・・今までの何よりも大切で・・・大きい物」


「・・・・・・何ですか?」


「知りたい?だったら・・・・リハビリに乗ってもらわなきゃ」


「・・・・・・矛盾してませんか?触らなくても生み出せるのに、触れ合うためのリハビリをするって・・・」


「だって、その条件なくても俺が千麻ちゃんに触りたいんです。いつまでもこんな犯罪者スタイルは嫌だしね」


「・・・・・お似合いです。一生それでいては?」


「暗にさ、リハビリ拒否った返事だよね?それ・・・」


「今現在自分に対する利益が見えないんです。結論も明かされないそれに何でわざわざ体の不快感に耐えてあなたと会わなきゃいけないんですか?」


「酷っ・・・、不快って・・・・、まぁ、いいや・・・」


「・・・・・諦めてくれましたか?」



諦めたように息を吐いて私から離れるように身を引いた彼が腕を組んで元の自分の席に歩いていく。


今更席を別にコーヒーでも飲むのかと思いきや、テーブルに残されていたカップを持つと再び私の近くに戻ってくる姿。


相変わらずしつこさは筋金入りだと、嘆いていいのか感心するべきか。


そんな彼の都合に合わせる必要もない。と財布を手にレジに向かおうとすればすかさず前に立ちふさがってにっこりと笑う。



「・・・・邪魔なんですが、」


「いいね。リハビリ効果。だんだん動揺なく俺に辛辣に切り返してる」


「喜ぶあなたの精神が心配です」


「やった。心配されちゃった」


「もう・・・いい加減に、」



段々腹立だしい彼の姿に本気で憤りのまま言葉を返そうとした瞬間。


唇にピッと触れた革の感触。


それだけで見事封じられ、弾かれなかった言葉たちが口の中で静かにしぼんで消えていく。