「ねぇ・・・、千麻ちゃん、俺に触りたくない?」
「・・・・まったく」
「前みたいに、熱っぽいキスしたくない?」
「特にキスに困った日々を過ごしてません」
「・・・・・ちょっと待って、なんかその一言は流せない」
「関係ないでしょう?あなたはもう私の人生に関係のない人なんですから」
「あっ、ちょっとゾクゾクする」
「っ・・・へんたーー」
思わず大きめの声でそう言いかければ、瞬時に抑え込まれた自分の口元。
一瞬の困惑。
触れた感触は革の冷たい質感。
彼の要素の無い感触だけどもそれこそ9か月ぶりに彼に触れられたのだ。
押さえ込んだ手をじっと見つめじわじわと理解した事態に体が強張る。
そんな私を『しまった』と言いたげに気まずい表情を浮かべた彼がそっとその手を外しながら言葉を弾く。
「・・・っと、・・・ごめん。咄嗟の行動で・・・・」
引っ込めた手を目の前でキュッと握ると下に下ろす姿。
それをただ呆然と見つめ、離れてしまえば緩々と解けていく硬直に息を吐いた。
救いだったのは・・・・無機質な感触のおかげ。
それでも・・・・得られなかったぬくもりに落胆もした。
相変わらず・・・・私の中は矛盾だらけだと顔を隠すように片手で覆うと皮肉に口の端を上げた。
「・・・・・・でも、・・・・予定外な奇跡」
「・・・・はい?」
もう、さっきからこの人は何が言いたいのか!?
さすがに疲れてきた神経に苛立って、パッと顔を上げると彼を睨みつけてしまった。
それでも眼だけは潤んでしまっていたけれど。
でも、憤りは一瞬で粉砕。
目の前で自分の手を見つめながら感無量な姿の彼を捉えたから。
「・・・・咄嗟の事だったけど・・・・千麻ちゃんに触れた」
「・・・・」
「触っても・・・・・心配したような拒絶が無くて・・・、
ああ、どうしよう・・・・俺・・・・・馬鹿みたいだ・・・」
「・・っ・・・・」
「・・・・・・・・・ずっと・・・ずっと・・・・、寂しくて・・・苦しかったよ・・・千麻ちゃん」
黒いガラスの向こうの、今も綺麗であろうグリーンアイから涙が流れて頬を伝う。
その瞬間に胸が熱くなってざわついて。
思わず手を伸ばしたくなるのに瞬時に歯止めをかける心。
触れない。
触ってはいけない。
『どうして?』
そう問えば・・・・・、答えは返される。
あの瞬間・・・・誰よりも傍にいて一緒に悲しんでほしかった瞬間。
私の気持ちを疑って手を離したんだ。



