申し訳なく思ってもどうにもならない現状。
反射的に意思より早く体が逃げた。
その瞬間に痛い程自分にも現実を叩き込まれて。
いくら意識して平常装って会話をしてみても変えられない過去の時間はまだ鮮明で。
まだ・・・心からは許して受け入れられないのだと再確認した。
「・・・・髪なんて、・・・面倒で伸ばしてただけです」
確かに彼好みに伸びた髪を確かめるように押さえながら、それでも特別な意味はないと切り返す。
期待なんて持たないでほしい。
私にこれ以上・・・・何も求めないで。
「面倒・・・ね。それはまた千麻ちゃんが使わなそうな言葉だよね」
見つめていた手袋の手をきゅっと握り直した彼がようやくその顔を上げ口の端を上げる。
掻き消した悲哀。
代わりに楽しげな表情を浮かべて。
「使わなそうって・・・・、さっきから私を知ったかぶったように話されますけど、あなたが知っていた私は所詮過去の私。・・・・あの時からもう9か月が過ぎて10か月に入りかかってるんです」
「早いよねぇ・・・・、いや、俺には最高に長い9か月だったけど」
「・・・・・・とにかく、・・・・・昔と同じ感覚で・・・私に接しないで。・・・・・いくら夫婦だった間柄でも、・・今は何の関係もないっ・・・元務めていた会社の上司にしか過ぎないんです!!」
ああ、少し感情が高ぶった。
言い切って片方の目から涙が零れて、気がつけば興奮した呼吸が荒い。
なんて・・・・失態。
ようやくこの9か月でこんな風に取り乱すことのない自分を取り戻してきていたというのに。
全て全て、意思関係なく無情にも打ち砕かれたような。
努力して再構築し始めていた自分をあの頃と変わらない調子で壊しに来た男。
ムカつく・・・。
「本当・・・・・人が・・・どんな思いでこの9か月・・・、ここまで・・・・心をコントロールするのにどれだけーーー」
「俺の為?」
「・・・・」
「そんな涙ぐましい千麻ちゃんの9か月の努力は・・・・・俺と平常心で再開する事を願ってのそれ?」
ソファーの背もたれで頬杖をついて、真面目な話をするには不真面目な装いの彼が私を見上げてぽつりと問う。
口元は笑っているわけじゃない。
それでも十分に含みある言葉を私にぶつけて、見事押し黙った私を確認しにっこりと口元に弧を描いた。



